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背番号六十八 
第二章

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「西本さんに鍛えられてな」
「ええ選手になったんですね」
「厳しい練習と拳骨でな」
「その二つで、ですか」
「今はちょっと拳骨はどうかってなってるけどな」
 平成になってというのだ。
「そやけどな」
「その頃はですか」
「まだ拳骨もありでな」
 そうした時代でというのだ。
「佐々木もや」
「西本さんに殴られて」
「梨田が一番よお殴られたらしいが」
 正キャッチャーであった彼がというのだ、これはキャッチャーがそれだけ重要なポジションであるからである。
「佐々木もよお怒られてな」
「そうしてですか」
「首位打者になるまでのな」 
 そこまでのというのだ。
「選手になったんや」
「そやったんですね」
「それで当時の選手は皆西本さんを尊敬してる」
「殴られてもですか」
「そこに深い愛情があったさかいな」 
 それが西本という人間だった、ただ厳しいだけでなくそこに何よりも深い愛情があったのだ。
「それでや」
「どの人もですか」
「西本さんを今でもや」
「尊敬してますか」
「それで佐々木は特にな」
 彼こそはというのだ。
「西本さんを尊敬していてな」
「そうしてですか」
「あの背番号を受け継いだんや」
「監督になって」
「これは西本さんみたいにや」
 尊敬する彼の様にというのだ。
「なりたい、そしてなってな」
「近鉄を強くする」
「そう考えてるんや」
「そうですか」
「ちょっとな、今の近鉄はな」
 年配のファンは愛するチームの現状については難しい顔になって述べた。
「お世辞にもな」
「ええ状況やないですね」
「野茂も阿波野も吉井も小野もおらんで」
 かつての主力投手達がチームを去ってというのだ。
「ブライアントもおらん」
「そやから最下位にもなりましたし」
「かなりな」
「やばいですね」
「チームを再建させなあかん」
「絶対に」
「そやからな」 
 それだけにというのだ。
「佐々木の責任は重大や」
「その責任を果たして」
「チームを西本さんの頃みたいにや」
「優勝させますか」
「その心意気をな」
 まさにというのだ。
「西本さんの背番号を受け継ぐことでや」
「見せてるんですね」
「わし等にもチームにも、そして自分自身には」
 他ならぬというのだ。
「言い聞かせてるんや」
「西本さんみたいにですか」
「チームを強くするってな」
「そういうことですね」
「そや、少なくとも心意気はな」
 これはというのだ。
「ホンマモンや」
「佐々木さんは」
「ああ、それはな」 
 こう中学生のファンに話した、そしてグラウンドでは。
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