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漆龍
第三章

[8]前話
「何だ、お主等よい者で札やお経を持っておるな」
「まあ用心で」
「そうしてきました」
「なら襲わん、前に来た奴はとことん見下げ果てた奴だったからな」 
 二人はそう聞いて米介のことだと察してさらに話を聞いた。
「火を吐いて焼き殺したが」
「それでその骨をです」
「供養の為に拾いに来たのですか」
「そこに転がっておるな」
 龍が見た方にだった。
 焼けた骨があった、龍はその骨を見つつ二人に話した。
「ここまで来て淵に入ってな」
「漆を採る」
「そうしましたか」
「それがあまりにも貪りかつ場を荒らすのでな」
 それでというのだ。
「何度も何度もであり山の獣達も好き放題獲り山菜もまでであり」
「もう根こそぎですか」
「獲れるだけ獲ったので」
「わしも怒って成敗した」
「そうでしたか」
「それで焼いた骨になっていますか」
「左様、拾って弔うならそうせよ」 
 龍はその骨を見る兄弟に話した。
「悪人でも弔うに限り」
「その為にここに来ましたし」
「そうさせて頂きます」
 兄弟もそれならと応えた。
「是非」
「その様に」
「それではな、あとわしはそろそろ天に上がるが」 
 龍は米介を弔うと答えた二人にこのことも話した。
「またあの様な者が来ればすぐに戻る、それでわしの力を宿した石を淵に置いてな」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「それをわしのこの山での目と耳にしてな」
 そうしてというのだ。
「あの様な者がまた山に入って来れば」
「その時はですか」
「成敗されますか」
「そうする、ではその骨を拾っていくがいい」
 こう言ってだった。
 龍はこの時は淵の中にもぐって姿を消した、兄弟は龍が身体を隠したのを見て卑しい男の骨を拾ってだった。
 隣村に持って帰り事情を話して弔った、人々はそんな二人を褒め彼等はそれからも欲を張ることなく程々に漆を採って幸せに暮らした。
 龍は天に上りその後その頭の形をした石が淵から出て残った、人々はこの逸話からその石を見て卑しいことはしないことだと言い合った。宮崎県に伝わる古い話の異聞である。


漆龍   完


                  2023・5・12
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