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朽ち木柳
第一章

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                朽ち木柳
 遊行という僧侶がいた。
 この僧侶は諸国を巡って念仏を唱えていたが。
 その中で奥州の白河の関を過ぎたところである村で読経を行うと村の老人からこんなことを言われた。
「その念仏を他でも唱えて欲しいのですが」
「何処で、でしょうか」
 遊行は白髪頭で痩せた老人に尋ねた、穏やかでとても優しそうな顔をした僧侶であるが足取りはしっかりしている。
「一体」
「はい、村の柳の前で」
「柳ですか」
「この村でも近所でも評判の木で」
 その柳はというのだ。
「朽ち木柳といいまして」
「その名ですか」
「かつて西行様がです」
「あの方がですか」
 遊行はその名を聞いてそれはという顔になった。
「そうなのですか」
「はい、かつて来られ」 
 そしてというのだ。
「歌を詠われたのです」
「そうなのですね」
「その柳のところに来て頂いて」
「念仏をですね」
「唱えて頂きたいのですが」
「それでは」
 遊行は微笑んでだ、老人の申し出に応えた。
「唱えさせて頂きます」
「そうしてくれますか、ですがお礼は」
「いえ、もうそれは頂きました」
 布施はとだ、遊行が笑顔で答えた。
「村の方々から」
「先程の読経で」
「ですからそれはです」
「いらないですか」
「はい」
 そうだというのだ。
「お気遣いなく」
「それで、ですか」
「これよりです」
「その柳の傍に来て頂き」
「唱えさせて頂きます」
「それでは」
 こう話してだった。
 遊行は老人にその柳の前に案内してもらった、その柳は柳のなかでもかなりひょろりとしたものであったが。
 そこに静かに立っていて見れば見る程味があった、その柳の前でだ。
 遊行は読経を行った、すると老人は笑顔で話した。
「有り難うございます、お礼はです」
「ですからそれは」
「いえ、お布施でなくてもです」
 老人は遠慮する彼に微笑んで話した。
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