第一章
[2]次話
鰹のたたき
土佐二十四万石の主になってだった。
山内一豊は様々な政治にあたっていたがその中でだ。
民に食あたりが多いことを見てその面長で口髭のある丸い目の顔をいぶかしくさせてそのうえで家臣達に言った。
「食あたりが多いのがな」
「問題ですな」
「どうにも」
「それが」
「食あたりは馬鹿に出来ぬ」
一豊は家臣達に言った。
「腹を下して弱ってもな」
「風邪と同じです」
「そこから身体を壊します」
「さらに悪くなりまする」
「そうなります」
「虫なぞ入るととな」
一豊はこの場合のことも話した。
「これは怖いぞ」
「それこそ命に関わります」
「非常に危ういです」
「これは昔から言われています」
「虫の怖さは」
「左様、それで食あたりが多いのはな」
その原因も話した。
「生ものを食うからじゃ」
「ですな、この土佐は前は海です」
「それこそ魚がすぐに獲れます」
「それを喰らうのは当然です」
「そうじゃ、特に鰹がよい」
この魚がというのだ。
「それで鰹を獲ってそのままじゃ」
「生で食っていますな」
「刺身にして」
「そうしていますな」
「海のものは川のものよりずっと虫は少ないが」
今話した虫の心配はそうだがというのだ。
「しかしな」
「あたるものはあたります」
「生ものについては」
「それで腹を下してです」
「身体を弱らせています」
「この国を治める者としてそれはさせられぬ」
民が身体を弱らせることはというのだ。
「やはりな」
「左様ですな」
「それではですな」
「この度はですな」
「手を打たれますな」
「そうする、鰹の刺身を口にしてあたるのなら」
それで身体を弱らせるならというのだ。
「今後はな」
「はい、そうですな」
「鰹の刺身を食することを禁じる」
「当家の法としますな」
「そうしますな」
「そうする、そして民の食あたりを防ぐ」
このことを定めてだった、そうして。
領地全体のこのことを伝えた、するとだった。
土佐の者達その鰹の刺身を食うことを好んでいた海の傍に住む者達は即座に嫌な顔をした、そのうえで言うのだった。
「何ぜよこれ」
「今度の殿さん嫌なこと言うちょる」
「鰹の刺身の美味さ知らんのか」
「あの美味さ病みつきになるっちゅうのも」
「酒にも合うぜよ」
「それがわからんとはのう」
「残念な殿さんぜよ」
こう口々に言った、だが。
法として定められた、それでだった。
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