第二章
[8]前話
「全く。噂は噂よ」
「君が凄い男好きでだね」
「誰かれなく手を出してるとかね」
「そんなことはだね」
「噂よ、私そうしたことしないわ」
テーブルの向かい側に座っている面長で小さく丸い感じの目でやや平たい顔立ちに薄い唇と左右で分けた黒髪を持つ一七一程の自分と同年代の痩せた男性に話した。
「とっかえひっかえとかは」
「君はそうだよね」
「相手はね」
その彼、夫の柳吉を見つつ話した。
「あくまでね」
「僕だけだね」
「そうよ、けれどね」
「僕とは」
「もう何でもね」
それこそという言葉だった。
「したいから」
「毎晩だね」
「それも何度もね」
「そうだよね」
「男好きって言ってもあなただけで」
その相手はというのだ。
「それで淫乱かっていうと」
「それは合ってるっていうんだね」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「今晩もね」
「何度でも楽しむね」
「そうしましょう、しかし私にそうした噂が出ていたのは」
「多分ね」
それはとだ、夫は妻に言った。
「家でのことがね」
「結婚してるの言ってないのに」
そして左手の薬指には今は指輪があるが会社ではしていない、これは仕事の時に邪魔になるからである。隠してはいない。
「それでもなの」
「家でのことが出てるんだよ」
「そうなの」
「毎晩じっくり楽しんでいると」
そうしていると、というのだ。
「そうしたらね」
「雰囲気とかに出てるの」
「それでね」
その為にというのだ。
「言われるんだよ」
「そうなのね」
「実際僕から見ても奥さん色気凄いし」
夫である彼からもというのだ。
「それでね」
「成程ね」
「けれど君が僕だけっていうのはね」
「事実だし」
「それならそうした噂がまた出ても」
そうなってもというのだ。
「気にせずにね」
「やっていけばいいわね」
「そう思うよ」
「そうね、前から気にしていなかったし」
「このままね」
笑顔で話してだ、そうしてだった。
未来は夫と楽しい夜を過ごした、そのうえで朝出勤すると何も言わずともかなりの色香を漂わせていた。そして何も知らない誰かがその彼女を見てまさかと思いそれを言葉に出したのであった。ことの真実は知らずとも。
男好きの先輩 完
2023・7・18
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