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Nalesha
Trois
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「ああ、もう少し待ってくれないか?後で行くよ」



「了解。DBにいるわ」



すぐに扉は閉まる。



No.0。わたしみたいな子供の諜報員なんて今までいなかった。だから、わたしのコードネームはゼロ。



「…検査は終わったでしょ?」



わたしは冷たく言った。



「そうだね。でも」



アベルは笑う。



「今日は、君の誕生日だから」



誕生日?



呆気にとられる私を尻目に、アベルはポケットからくたびれたリボンを出した。色は赤だ。



「これ、気にいるといいんだけど」



「受け取る理由がない」



「誕生日はお祝いするものだ。産んでくれたパパとママと、生まれてくれた君と、主に感謝して」



アベルは無理矢理わたしの手にリボンを握らせた。



「ナリョーシャ。12歳のお誕生日おめでとう」



それじゃあ僕は行くね、とアベルはドアから出て行った。



誕生日、だって?



わたしの誕生日なんて、わかるはずがないのに。わたしは赤子の時にここの誰かに拾われた、親なしの子なのだから。



座りの悪い安い椅子に腰かけたまま、わたしは暫くじっとしていた。



12歳。ということは、この研究所に来て少なくとも12年が過ぎたということだ。



12年。無力な自分を痛感して、過ぎるのを待つ日々は長かった。そしてそれはまだ終わりじゃない。



わたしは自分の骨ばった細い腕を見た。女は力で男にはかなわない。スパイに過剰な筋力も必要ない。むしろそれは警戒される材料になるからだ。



わかっていても、悔しい。時には力が何よりも勝ることを知っているから。



いや、自分の無力さを知っているということは、それだけで1つの武器なのだ。自分を客観的にで見つめられるのは大事なことだ。無力さを知っているがゆえそれを補うことができる。



自らの欠点をプライドで目を曇らせて見ようともしない人間は愚かだ。敵を知り、己を知らば百戦危うからずと孫子も()いている。先人に人類はもっと学ぶべきだ。



こんな小さな手でも望むものを掴めると、いつか心から笑ってやる。
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