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犬と脱脂粉乳
第二章

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「そうなのよ」
「それでか」
「これからもね」
「ふわりに飲ませるミルクは犬用か」
「人間のミルクは私達が飲むわよ」
 こうも言うのだった。
「いいわね」
「ああ、俺も別にな」
 これといってとだ、洋介は母に話した。
「犬のミルクはな」
「飲みたくないわね」
「だからいいよ」
「じゃあ脱脂粉乳はどうかしら」
 母は笑ってこの飲みものの名前を出した。
「お父さんもお母さんも飲んだことないけれど」
「何だよそれ」
 洋介は母の今の言葉に頭の上にクエスチョンマークを出して尋ねた。
「脱脂粉乳って」
「戦争終わった後の給食で出てたのよ」
「牛乳だよな」
「牛乳でもね」
 そうであることは事実だがというのだ。
「名前の通り脂肪がなくて」
「粉か」
「それよ」
「それってどんな味だよ」
「物凄くまずかったらしいのよ」
 母は伝え聞いている話を息子にした。
「かなりね」
「まずかったんだな」
「驚く位ね」
「そんなものもあったんだな」
「あんたは飲むかしら」
「いらないよ、そんなの」
 息子は即座に答えた。
「牛乳は普通のでいいさ」
「そうよね」
「何でそんなの食うんだよ」
 こうも言うのだった。
「まずいっていうのを」
「そうよね」
「そんなのふわりだってな」
「犬用もミルクだとしてもね」
「飲まないだろ、ふわりもどうだ?」
 今もケージの中にいるふわりに尋ねた、もう食べて飲み終えてちょこんとその中に座ってこちらを見ていた。
「脱脂粉乳飲みたいか?」
「クウン?」 
 そう言われてもわからないという顔であった、洋介はその彼女にさらに言った。
「普通のミルクの方がいいよな」
「ワンッ」
 今度はその通りという風に鳴いた、彼はそんなふわりを見て母に言った。
「ふわりだってな」
「いらないみたいね、脱脂粉乳」
「ああ、昔はそんなのあったんだな」
「戦争が終わった後はね」
「戦争終わった後の給食にはか」
「それで凄くまずかったらしいのよ」 
 また息子にこのことを話した。
「これがね」
「絶対に飲みたくないな」
「私達もそうだし」
「ふわりもそうだろうな」
「そもそも知らないみたいね」
「というか別に知らなくてもいいよな
「それで飲まなくてもいいわ」
 息子に笑って話した、そしてだった。
 二人は冷蔵庫の牛乳を飲んだ、人間用のそれは実に美味かった。


犬と脱脂粉乳   完


                  2023・6・23
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