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お兄さん。オレのあいさつ……無視したよね?
(1)

[2]次話
 深町(すすむ)は、自治公民館となっている小さな神社の前で立ち止まった。
 時間を確認すると、ぎりぎりだった。余裕をもって家を出ていたはずなのに。

 曇天なのに深く被っていたバケットハットのつばを、少し持ち上げた。
 すぐ前に見えている小ぶりな鳥居。久しぶりに見たそれは、当時よりさらに小さくなったような気がした。
 いや、鳥居だけではなかった。右手前の門柱に掘られている『奈和神社』という文字も、鳥居の先に見える社殿も、さらに言えばこの神社全体も。すべてが、記憶より小さくなっているように感じた。

 今回の集会に参加する神社総代、部会の部長、自分以外の班長たちは、全員すでに社殿の中にいると思われた。
 だが入り口は閉まっており、それを確認することはできない。

 進は胸に手を当てて深呼吸を一つすると、鳥居をくぐろうとした。

「おはようございます」

 突然、あいさつが後ろから聞こえた。

「ひえっ」

 高く、少しかすれた、大人のものではない声。体がビクっと硬直した。
 振り返ると、半袖半ズボンで、よく日焼けした、活発そうな笑顔の男の子が立っている。
 知らない子だった。

「あっ、お、おはっ、おはようございます!!」

 どもりながら、大きな声であいさつを返した。頭も下げていた。
 新入社員研修で教わった直後のような、硬いお辞儀。

「うわぁ」

 頭をあげると、男の子は耳をふさいでいた。
 そしてどうやら、顔をしかめながら笑うという器用なこともしていた。

「あ、うるさかった、よね。ご、ごめん」

 進は慌てて謝った。
 七月にしては涼しい日なのに、汗が噴き出してきた。
[2]次話


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