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生まれたばかりの子鹿を
第二章

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「達者でな」
「ヒヒン」 
 子鹿は彼に対して一声有り難うという風に鳴いてだった。
 群れの方に帰り彼等と共に森の中に消えた、こうして子鹿はダリウスと彼の一家の前から姿を消したが。
 暫く経ってからだ、妻は夫に尋ねた。
「あの娘にも名前付けなかったわね」
「いつもそうしているな」
「野生の生きものを保護したらね」
「僕はこう考えてるんだ」
 夫は妻に真面目な顔で答えた。
「野生の生きものは名前がない」
「それでなのね」
「あの娘も他の子も本来野生でだ」
 その世界にいてというのだ。
「僕はたまたま助けて一時預かっているだけだ」
「野生の子達を」
「家族にする訳じゃない」
 決して、そうした言葉だった。
「必ず自然に帰る」
「実際に帰しているわね」
「そうした子達だからだよ」
 それが為にというのだ。
「いつもなんだ」
「名前を付けないのね」
「そうなんだ」
 実際にというのだ。
「僕はね」
「そうした考えなのね」
「そうなんだ、間違ってるか正しいかはわからないけれど」 
 それでもというのだ。
「僕はそうした考えだから」
「いつも名前を付けないのね」
「そうなんだ、これからもね」
「そうしていくのね」
「そのつもりだよ」
 こう妻に話した、そしてだった。
 妻にだ、彼は笑顔で言った。
「朝ご飯を食べたら」
「今日もね」
「仕事をしよう」
「畑に行ってね」
「玉蜀黍が僕達を待っている」
 広い畑にいる彼等がというのだ。
「その畑の世話をしよう」
「ええ、今日もね」
 妻も笑顔で頷いた、そうしてだった。
 夫婦で子供達と一緒にご飯を食べて彼等が学校に行ってから畑に出た、そして明るく働いたのだった。


生まれたばかりの子鹿を   完


                  2023・5・17
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