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桐と琴
第一章

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                桐と琴
 中国宋代はじめの頃の話である。
 黄河の南の地に森の王とまで呼ばれる一本の桐の木があった、その木を見てだ。
 ある仙人が桐の見事さに魅入られてすぐにその桐を琴に変えてしまい持ち去ってしまった。
 この頃宋は統一を果たさんとしそのうえで国の政を固めんとしていた、後に太祖と呼ばれる様になる皇帝は政務に励む間にだ。
 名立たる楽士達を宮廷に集め音楽を聴きその中で琴も聞いていたがある日その四角く鷹揚で陽気な感じの顔をどうもという風にさせてだ。
 宰相の趙普、厳格そうであり知性と鋭さに満ちた目の光を放つ整った髭を生やした背筋の伸びた彼に言った。
「朕は近頃琴の音に満足しておらぬ」
「そうなのですか」
「他の楽器では満足しておるが」 
 それでもというのだ。
「どうもな」
「琴ではですか」
「そうなのだ」
 こう言うのだった。
「残念なことにな」
「そうですか、ですが」
「それでもか」
「全てのことで満足出来ることはです」
 趙普は皇帝に極めて冷静な声で述べた。
「あるかといいますと」
「ないか」
「はい」 
 そうだというのだ。
「それが世というものであり」
「楽も同じか」
「はい、しかもです」
 趙普はさらに話した。
「宮廷に集めた楽士達は皆本朝選りすぐりの者達」
「腕に間違いはないな」
「間違っても」
「それはわかっておる、琴の質もな」
「やはり本朝でも選りすぐりのです」
「者達が造ったな」
「左様です、それで満足出来ないのならです」
 それならというのだ。
「仕方ありませぬ、まあ楽士達の腕がよくなり琴の質もです」
「よくなることをか」
「待ちましょう、ただこうしたことで人を罰することは」
「わかっておる、些細なことでは刑罰は用いぬ」
「そうされて下さい」
「では琴の者達には今以上に鍛錬に励みよい琴を造ることをな」
「何処となく伝えましょう」
 皇帝に対して話した。
「鍛錬をすればする程よくなりますし」
「楽もな」
「そうです、ですから天下の君は」
「こうしたことで銅も思わぬことだな」
「そうしましょうぞ」
 こう話してだった。
 皇帝は琴のことは仕方ないとした、それでことを終わらせようとしたが。
 ある日狩りに出て湖のほとりで休んでいるとだ。
 一人の年老いた男が皇帝と供の者達がいる近くに座り琴を奏でんとしていた、老人は何かを囁くとだった。
 琴は自然と音を奏でだしそれは極めて奇麗な音だった、それを聞いてだ。
 皇帝は驚いてだ、老人のところに行って彼に尋ねた。
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