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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第87話 アトラハシーズ星系会戦 その3
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 宇宙歴七九〇年 二月一七日 アスターテ星域アトラハシーズ星系

 一七〇〇時。戦闘の後始末を終えて、恒星アトラハシーズに向けて進路をとった。交戦時間は短かったものの、有力な敵との戦いに将兵の精神的な消耗は大きい。特に敵の攻撃を引き受ける形になった第一部隊の消耗は激しく、数少ない支援艦や病院船では足りず第二・第三部隊の戦艦にまで重傷者を移乗させ治療にあたることになった。

 そしてこれも当然と言えば当然だが、三桁に及ぶ捕虜の獲得もあった。艦対艦の至近戦闘が最終的には行われなかったが故に、機関が大破し漂流した艦艇や脱出ポットで緊急脱出した帝国軍将兵の生存率は高い。重傷者も勿論いるが、緊急脱出できるだけの体力と精神力を有している以上、意識ははっきりしている捕虜は多い。そして彼らからの情報採取をモンティージャ中佐は行っていたわけだが……

「現在この星系には、三つの帝国軍勢力が存在するとの捕虜の証言です」

「三つ、とはどういうことだ?」

 モンシャルマン参謀長の疑問は、第四四高速機動集団司令部小会議室に集まったモンティージャ中佐以外の全員の疑問だ。そして中央に設置された三次元投影機の薄明かりの中で、実際に操作している中佐の顔に一切の感情が浮かんでいないのは誰の目にも明らかだった。

「先程会敵したメルカッツ中将の艦隊約一六〇〇隻、これはアスターテ星域防衛艦隊の中核戦力です。我々の進撃に合わせて艦隊駐留地のアスターテ星系より移動してきたものです」

 抑揚に乏しい、普段では考えられない声色の中佐がハンドリモコンを弄ると、アトラハシーズ星系の第U惑星に向けてアスターテ星系から動く青色の三角錐が現れる。

「アスターテ星域よりドーリア星域に向けて偵察を行っている偵察分隊が三〇ほど。合わせて九〇〇隻。これは証言の通りであれば現時点で我々の通り過ぎてきたユールユール星系に集結中」

 今度はアトラハシーズ星系に隣接したユールユール星系にやや小さめの青い球体が現れる。

「ヴァンフリート星系にて補給と修理を行っていた『アスターテ星域防衛艦隊第二・第三任務部隊』が合わせて一八〇〇隻。本日〇五〇〇時にはヴァンフリート星域への跳躍宙域に到着済みとのこと」

 拡大されたアトラハシーズ星系外縁部にある跳躍宙点に三角錐が二つ現れる。これは予想通りとまではいかないが、メルカッツの動きからは充分想定される程度の戦力だ。これでアスターテ星域防衛艦隊が、メルカッツ指揮下で四五〇〇隻程度の戦力となる。事前の予想の五割増し。大規模な補給基地のない前線の防衛戦力としてはやや過剰だが、ダゴン・ドーリア・エル=ファシルと複数の戦線を抱えている前線であれば、考えられないレベルではない。

「これに加えて、イゼルローン星域より要塞駐留分艦隊が出動。数は約三
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