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握手
第二章

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「足立、その考えは立派だが間違ってる」
「どういうことですか?」
「俺達は全員で戦ってここまで来たんだ」
 その面長の顔で言った、背はセカンドと思えないまでに高い。
「だからシリーズでもだ」
「全員で、ですか」
「戦うことだ、君一人が巨人に向かってもだ」
 今度はその忌まわしい邪悪の権化を見て話した。
「それでもだ」
「巨人には勝てないですか」
「野球は一人では勝てない」
 スペンサーはこうも言った。
「君も野球人だ、わかっているな」
「はい、それは」
「そういうことだ、俺達がいるんだ」
 スペンサーは足立に強い声で告げた。
「そのことを忘れないでくれ」
「そうしてですか」
「投げるんだ、いいな」
「そうしないとですか」
「勝てない、負けるのは俺達だ」
 シリーズがはじまる前に言った、そのうえでだった。
 スペンサーは他のナインと共にグラウンドに出た、そうしてシリーズは開幕した。シリーズは西本も多くの者も予想した通りにだった。
 巨人は勝ち方を知っていた、それでだった。
 シリーズを有利に進めていった、だがその中で。
 足立は気を吐き力投した、アンダースローは唸り巨人打線を苦しめていった。足立はその中でまた西本に言った。
「どんな時でもです」
「投げてくれるか」
「それで日本一になりましょう」
 阪急がというのだ。
「そうなりましょう」
「日本一の為にか」
「はい、わしはです」
 絶対にと言うのだった。第二戦は完投しつつも敗れ第四戦第五戦では勝利投手になっている、実績を出していた。そのこともあっての言葉だった。
「投げますさかい」
「そうしてか」
「監督を胴上げします」
「そう言ってくれるか」
「西宮に戻ったんです」
 阪急の本拠地であるこの球場にというのだ。
「ここで、です」
「胴上げか」
「そうしましょう、あと二勝です」
 足立は決死の顔で言ってだった。
 試合に挑んだ、その第六戦にだった。
 巨人は攻勢に出て阪急を追い詰めた、それはこれまで力投していた足立も同じで彼はこのシリーズはじめて危機に陥ったと言ってよかった。
 それを見てだ、西本はマウンドに上がったが。
 ここでだ、スペンサーは言った。ナインもマウンドに集まっていたのだ。
「ここで打たれるとだ」
「ああ、試合の流れが決まるな」
「そうなる」
 スペンサーは西本に真剣な顔で答えた。
「ここが正念場だ、そして足立は疲れが溜まっている」
「ここまで投げてくれたしな」
「ペナントでも投げてくれたんだ」
 こちらでもかなり活躍していたのだ。
「それでだ」
「ここはか」
「足立を代えるべきだ」
 スペンサーは西本に進言した。
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