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バケモノを前にして
第一章

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                バケモノを前にして
 大谷翔平を前にしてだった。
 根室寿は妹の千佳に自宅のテレビを前にして言った。
「僕は何を観ているんだ」
「野球の試合でしょ」
 即座にだ、千佳は兄に答えた。
「何って」
「いや、問題はな」
「大谷さんね」
「そうだよ、何だよこの人」
 顔を顰めさせて言うのだった。
「無茶苦茶過ぎるだろ」
「一六〇キロ以上投げてね」
「ストレートはな」
「最高一六五キロ出したのよね」
「ああ、そうだよ」
 寿はソファーに憮然として座りながらテーブルに座ってカルピスを飲んでいる妹に対してこれまた憮然とした声で答えた。
「日本にいた時にな」
「そうよね」
「そしてな」
 それにとだ、寿はさらに話した。
「変化球もな」
「全部有り得ない曲がり方してるわね」
「凄いスピードでな」
「あんなのそうはね」
「打てないわよね」
「ああ、それでコントロールもな」
 こちらもというのだ。
「いいしな」
「物凄いピッチャーよね」
「ああ、しかしな」
「それだけじゃないっていうのね」
「ピッチャーとして有り得ないだろ」
 そこまでの能力の持ち主だというのだ。
「一六五キロ投げて変化球は全部魔球で」
「コントロールよくて」
「そしてな」
 そのうえでというのだ。
「バッターとしてもな」
「凄いわね」
「今ホームラン打ったけどな」
「二打席連続?」
「二打席連続でスリーランだよ」
 それを打ったというのだ。
「そうしたよ」
「私広島ファンだけれど」
 千佳は兄にこう前置きして話した。
「阪神のピッチャーってね」
「いいよな」
「打線は問題があって守備はね」
「もっと酷いな」
「今の試合もそうだったわね」
「ああ、中々以上にな」
 寿はこれまで以上に憮然として話した。
「酷いよ」
「守備よくしようってね」
「岡田さん言ってもな」
「中々改善されてないわね」
「ああ、しかしな」
「それでもなのね」
「ピッチャーはいいからな」
 このことは事実でというのだ。
「それでな」
「その投手陣からね」
「二打席連続でスリーランなんてな」
「私もちょっと観たことないわ」
「うちのピッチャーがこんなに打たれるなんてな」
 それこそというのだ。
「そうそうないよ」
「村上さんレベル?」
「だろうな、村上さんには正面から挑んで」
 ヤクルトの主砲である彼にというのだ。
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