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冥王来訪
第二部 1978年
影の政府
熱砂の王 その6
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んであろう。
悪いことは言わん。GRUの計画に協力せよ」
両手を広げて、男に同意を求めた。
「馬鹿な。党指導部が、この私を懲罰にかけるものか。
第一、ソ連のことを思えばこそ」
椅子より身を乗り出して、反論した。
 
 政治将校は、彼に顔を近づけて、強い口調で言い放つ。
「とらえた女兵士を、木原がゼオライマーで救出すれば」
「救出するという保証はあるのかね」
政治将校は畳みかける様に続ける。
「救出しないという保証も、又、無い」
大尉は、自嘲するような笑みを浮かべ、
「フフフ、なるほど。つまり、危険な()は早いうちに()んでしまえと」
「その通りだ。木原を倒し、中近東でのソ連の足場を完成させる。まさに一石二鳥」
半ばあきらめたかのように、言い放つ。
「その話は、了解した。
ただし今の我々は、シリア政府の許可がなければ、シリア領空からレバノンを攻撃することはできない。
そのことだけは、忘れないでほしい」

 政治将校の説得を受けた大尉は、一頻り思案した後、電話で戦術機部隊に待機命令を出す。
中隊長室を後にし、シリア側と話し合いに行く際、駆け込んできたラトロワに止められる。
「中隊長、ぜひ聞いてほしい」
カーキ色の熱帯服姿の彼女を一瞥した後、碧眼を見つめながら、
「悪いが時間がない。歩きながら話してくれないか」
そう告げると、立ちふさがる彼女の右わきから通り抜ける。
 ラトロワは振り返ると、すぐに先を進む男を追いかけて、
「率直に言う。出撃をやめてくれないか」
男は立ち止まると、彼女のほうを振り返って、驚愕の表情を見せる。
「なんだって!どういうことだ」
「出撃をすれば、その日本人の思うつぼだ。
いたずらに犠牲を増やすより、ほかに方法はあるはずだ」
男は、首を横に振る。
「いや、いかにフィカーツィアの意見でも、それだけは聞けないな」
 ラトロワの表情が変わったことに気が付いた大尉は、じっと見つめる。
「亡くなった御父上の名誉が、大切なことはわかる。
懲罰が実施されるかも、わからないし……
それに無駄に戦わずとも、上層部の不興を買わないで済む方法が、ほかにある」
彼女の深い憂慮の念をたたえた(まなじり)には、うっすらと涙が浮かんでいた。


 そこに後ろから、政治将校が現れて、
「もっと大切なことが、あるのだ」
思わず絶句したラトロワと男は、直立不動のまま、政治将校に顔を向ける。
「母なる祖国、ソビエトの大地を荒らした宿敵、ゼオライマーの首を他の国に奪われる事になってからでは遅い。
断じて、米国や帝国主義者に、渡すわけにはいかない」

 立ちすくむ、二人の若い男女の顔色が変わる。
(「70万の人口が住む都市が一瞬に消せる相手などにかなうものか……」)
ラトロワ
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