暁 〜小説投稿サイト〜
くらいくらい電子の森に・・・
第二章
[1/8]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
第二章

緩やかな目覚めの音楽で、目を覚ました。ビアンキが朝のイメージに近い音楽を選んで、決まった時間に流してくれるのだ。
「おはようございます、ご主人さま!」
パソコンのカメラに向かって手を振ると、ビアンキが画面に大写しになって微笑んだ。
「今日は2限から、民事訴訟法の講義ですよ」
……もうそんな時間か。僕はゆっくり身を起こした。

ビアンキに起こしてもらうようになってから、2週間が経つ。

最初の2〜3日は、「いまビアンキが起動するのか!」「ビアンキが音楽を奏でるのか!」と緊張する余り、ちっとも眠れなかった。……馬鹿だ。仮想人格とはいえ、女の子に起こされるのなんて初めてのことで、妙にはしゃいでいた。初めて「おはようございます、ご主人様!」と声をかけられた日は、そんな言葉を女の子に言われてしまった面映さに、思わずパソコンの前で正座してしまった。

最近はもう、起こされることにも慣れてきた。
洗ったままハンガーに干しっぱなしのシャツを引っ張り、後ろ前じゃないことを確認して着る。ふとビアンキに目をやると、彼女は画面上をほうきで掃きまわり、黒い塊を作っていた。僕はちょっと『ご主人さま』を意識した口調で話しかけてみる。
「やあ、もう朝ごはんかい?」
「はい、朝ごはんです!」
朝ごはんの意味を分かっているのかどうか知らないけれど、ビアンキはにっこりと微笑む。
黒い塊はぶより、と蠢いたかと思うと、しゅるしゅると回りながらリンゴの形をとった。
「ほぅ、今日はリンゴか」
彼女が集めていた黒い塊は、スパムメールやサイトで拾ってきたウイルスやスパイウェアらしい。最初この子が何を食ってるのか分からなくて不安になって調べてみたところ、「消化機能」が働いているときのアニメーションだということが分かった。本当に手探り状態だ。MOGMOGに詳しい紺野さんとメアド交換しておいてよかった。

<i250|11255>

それにしても本当に美味しそうにリンゴを頬張る。……かわいいなぁ。優しく起こされたり、「ご主人さま」と呼ばれるよりも、おいしそうに「朝ごはん」を頬張るビアンキを見るのが今は一番好きだ。
「おいしいかい?」
いつものように、画面に声をかける。今日もキョトンとされるんだろうな…
「はい、おいしいです!」
彼女は一瞬リンゴから口を離すと、そう答えた。
へぇ…
これが、「会話学習機能」か……!

MOGMOGは、ユーザーが話しかけることでコミュニケーション能力を発達させていくことができる。僕が喋った中に、データにない言葉があれば、グーグルなどで検索して調べ、次に同じ言葉が会話の中に出てくれば、内容に応じた答えが返ってくるようになる。

「おいしい」って何なのか、彼女が理解してるかどうかは、また別の話なんだろうけど…

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ