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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
GX編
第139話:仕込み完了
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野郎……透、大丈夫か?」

 透は先程響と奏を助ける為キャロルに接近し、そして地面に叩き落された。そのダメージがまだ残っているだろうにとクリスが心配すると、透は力瘤を作る様に拳を握って問題ない事をアピールした。

 クリスを仕留めそこなった事にキャロルが面白くなさそうに鼻を鳴らすと、体勢を整えた翼と響が前後から挟むようにしてキャロルに飛び掛かった。

「おぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁっ!」

 前後からの同時攻撃。しかしキャロルは一瞬自身の体を糸で覆い、それを解放する際の衝撃で2人を纏めて吹き飛ばした。

「うおっ!?」
「あぁっ!?」

 響と翼が容易く振り払われる。もうシャトーを止める術はなく、世界の分解は時間の問題。己の勝ちは揺るがないと、キャロルはここに勝利を宣言するかのように声を張り上げた。

「世界を壊す、唄があるッ!!」

 最早世界の分解は止めようがないのだと宣言するキャロルを、叩き落された響が大粒の汗を顔に浮かべながら見上げていた。

 そこに、今度は奏が飛び掛かった。大きく跳躍した彼女は、手にした槍に全体重を乗せキャロルに突き刺そうと迫った。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「フンッ、無駄だ」

 しかし再びキャロルの糸により奏の一撃は止められてしまう。だがこれで良かった。奏はこの状況を狙っていたのだ。

 勝ち誇ったキャロルと、至近距離で話す為に。

「もう勝った気になってるのかい? そいつは少し早計ってもんだ」
「何を?」
「この場に1人、足りない奴が居る事に気付かないか?」

 キャロルは奏の言葉に一瞬訝しんだ。そして視線だけで周囲を見渡し、それが誰なのかに漸く気付く。

「明星 颯人……? 奴は何処に?」

 そう言えば戦いが始まってから、颯人の姿だけがない。他の魔法使い2人が参戦していると言うのに、彼だけが戦いに参加していない事に違和感を覚えた。情報では彼は奏の事を大切にしている筈。それが、こうして時に窮地に陥っている奏を何時までも放置しておくだろうか?

 キャロルの中に疑問が芽吹く。奏はそれに気付いて、拘束されているにも拘らず笑みを浮かべた。

 その笑みは、颯人が時に浮かべる際の物と非常によく似ている。己の仕掛けが上手く嵌り、相手の度肝を抜く際の笑みだ。

「よ〜く目を開いて見てな。これから颯人が、お前の大嫌いな奇跡を見せてくれるからよ」

 そう告げる奏の顔は、見た目以上に迫力がありキャロルも一瞬気圧された。キャロルは理解した。奏のこの言葉は決して負け惜しみでもハッタリでもない。

 キャロルとの戦いの最終局面。この土壇場で、颯人がこれまでに仕込んできたタネで全ての盤をひっくり返そうとしていた。
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