第一章
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ホモ爺
成田彦次郎はよくこう言っていた。
「わしは五十年婆さん一筋でじゃ」
「これからもだって言うんだよな」
孫の実篤が応えた、日に焼けた長方形の顔で目鼻立ちがしっかりしていて明るい、目の光がきらきらしていて眉の形もよく髪型はスポーツ刈りだ。通っている高校では水泳部でありクロールの選手である。
一七四程の背で引き締まった痩せた身体である、その彼が白髪を短くしていて皺だらけだがきりっとした顔立ちで背筋もしっかりしている祖父に応えたのだ。
「そうだよな」
「そうじゃ、二十で結婚してな」
「今七十でな」
「例え百歳になってもな」
「祖母ちゃん一筋か」
「そうじゃ、絶対にな」
「嘘だろ」
孫は祖父の言葉をここまで聞いてこう返した。
「それは」
「何っ、孫のお前がわしの言葉を否定するのか」
「祖父ちゃんの何処が祖母ちゃん一筋なんだよ」
むっとした顔での言葉だった。
「一体な」
「見てわかるじゃろ」
「どういう意味で見てわかるなんだよ」
「わしが婆さん一筋ということがだな」
「じゃあ今祖父ちゃん何人愛人さんいるんだよ」
「五人じゃ」
祖父は堂々と答えた。
「皆わしの愛しい人達じゃ」
「愛人さん五人もいて何が祖母ちゃん一筋だよ」
「何がおかしい」
「おかしいだろ、太宰治さんだって愛人さん二人だったぞ」
自殺する直前の彼の話をした。
「というか乗り換える感じでな」
「心中した人と一緒になったな」
「そうだろ」
「郷土の偉人だから知っておる」
彦次郎はここでも堂々と言った、実は彼の家は津軽で広く事業を展開している太宰の実家に負けない位の名家だ、ただし家の格はずっと太宰の実家より下となってこの家を盛り立てる立場となっている。
「わしもな」
「日本で太宰さん知らない人の方がいないだろ」
「広く読まれておるからのう」
「その太宰さんでもそうだったんだぞ」
愛人は厳密に言うと一人ずつだったというのだ。
「それで五人だぞ、それも七十になってな」
「若い頃は二十人はおったのう」
「どんなのだよ、ハーレムじゃねえか」
「若い頃は体力があり余っておってな」
全く何も思っていない返事だった。
「わしもそれ位は平気だった」
「それで五十年ずっと祖母ちゃん一筋か」
「わしは嘘は吐かんぞ」
「嘘だろ」
「何を言う、おなごは婆さん一筋じゃ」
彦次郎は実篤に怒って言った。
「あくまでな」
「男ならいいのかよ」
「おなごはおなご、おのこはおのこじゃ」
言い切った、見事なまでに。
「そうであろう」
「そんな理屈通用するのかよ」
「お前は前田利家さんも知らんのか」
「織田信長さんの家臣で加賀藩の祖だろ」
「そうじゃ、あの人は沢山の子を
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