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アウトサイダーロマンス
第五章

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 ブリケッティは振り返ることなく教会を後にした、そのまま組織の若い者に運転させている車の後部座席に乗ってだった。
 出発させた、そこで若い者が運転しながら後部座席で腕と足を組んで座っている彼に対して聞いてきた。
「よかったんですか?」
「何がだ?」
「あのシスターさんですよ」
 聞くのは彼女のことだった。
「断わったんですよね」
「それがどうかしたか」
「美人でいい人なのに」
「俺には女房と娘がいるんだよ」
 ここでもこのことを言った。
「それにだ」
「カモラだからですか」
「何時どうなるかわかったものじゃないんだ」
 裏の世界に生きていてというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「そんな申し出はな」
「断わりますか」
「そうさ、女房娘にも何の仕事をしているかは言ってないんだ」 
 カモラにいることはというのだ。
「何かあった時悲しむ奴は少ない方がいい」
「実際どうなるかわからない世界ですからね」
「コロシに関わってないだけ危険は少ないがな」
 殺せば殺される、そうしたものだからだというのだ。
「しかしな」
「それでもですね」
「そうした世界だからな」
「出来るだけですか」
「何かあった時出来るだけな」
「泣く人は少ない方がいいですか」
「そうさ、だからな」
 それでというのだ。
「ああしたことは断ることにしてるんだ」
「寂しいですね」
「そうした世界ってことだ、じゃあな」
 ここでだ、ブリケッティは。
 懐から煙草を出した、それに火を点けて吸ってから言った。
「吸ってからだがいいな」
「いいですよ、俺も吸いますし」
「それじゃあな、こうした時に吸う煙草はいいものだ」
「美味いですか?」
「まずい、しかしな」
 そう感じるがというのだ。
「忘れられる、だからな」
「いいものですか」
「ああ、一本吸って忘れてな」
 実は忘れない、忘れられない。だがその一本で吹っ切る様に自分自身に言い聞かせるからだというのだ。
「それで帰ったらまただ」
「仕事ですね」
「港の人夫の斡旋だ」
 そっちの仕事だというのだ。
「ナポリのな」
「それをしますね」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「港に行ってくれ、着いたらな」
「すぐにですね」
「仕事をするぞ」
 煙草を吸いつつ言った、そうしてだった。
 彼は実際に仕事に入った。その時には吹っ切っていた。無理にそうしてそのうえで彼等の世界の仕事をした。


アウトサイダーロマンス   完


                     2022・7・18
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