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老婆の乳房
第二章

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「触ればその人に子宝を授ける様になる」
「そうなりますか」
「その力でな」
「村の人達の、ですね」
「役に立つ様にするといい」
「そうですか、では」
「その様にしていくことだ」
「わかりました」
 娘は俊斉の言葉に頷いた、そうしてだった。
 娘は姿を消した、そして次の日俊斉は自分が今いる村に戻った、それから暫く経ってからであった。
 三尾川村の者達が来て彼に話した。
「今は畑仕事が出来ます」
「寺のすぐ傍まで畑を作れました」
「銀杏の木の根が縮みまして」
「そうなりました」
「それは何よりです」
 俊斉は村人達の話を聞いて喜んだ。
「そうなればです」
「はい、俊斉様もですね」
「嬉しいですね」
「左様ですね」
「銀杏の頼みを適えられて」
 そしてというのだ。
「村の皆さんも助かりましたので」
「まさに誰かが助かる」
「そうなりましたので」
「だからですね」
「はい、それにです」
 俊斉はさらに話した。
「畑はどうでしょうか」
「いや、土が肥えました」
「銀杏の木の根がなくなり耕せる様になって」
「それに木の根が養分を吸わないので」
「そうなりましたので」
「それは何よりです。銀杏の精が私に頼んだのは私の話なら皆さんが聞くと思ってでしょうが」
 彼の名医としての人望を見てというのだ。
「そうなって何よりです」
「はい、しかもです」
「銀杏の瘤に触れて子宝を願うとです」
「次々に子を授かるので」
「村はこれから賑やかになりそうです」
「銀杏の精はその約束も守ってくれていますね」
 俊斉は微笑んで述べた。
「有り難いです」
「村の役に立ってくれています」
「子宝を授けてくれて」
「もうあの木を切ろうとは思いません」
「そんな話はしません」
「そうして下さい、これからも」
 俊斉は笑顔で述べた、そうしてだった。
 光泉寺の銀杏の木は切られずに済みだった。
「子授け銀杏だな」
「そうだな、瘤に触ると子供を授けてくれるから」
「今度はそう呼ぼう」
「そうしよう」
「そうして頂けると精も喜びます」
 俊斉は笑顔で答えた、そうしてだった。
 銀杏の木は村人達だけでなく近隣の者達からも愛される様になった、そして今に至る。和歌山県に今も残っている話である。


老婆の乳房   完


                 2022・5・14
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