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ベンツが怖い
第二章

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「高いけれど普通の人だってな」
「買えるのね」
「そうだよ、今頃そんなこと言うなんてな」
 ベンツがヤクザ屋さんの乗る車と、というのだ。
「ないだろ」
「そうなのね」
「そうだよ、見ろよ」
 圭一はそのベンツを見つつ未可子に話した。
「そのベンツのオーナーさん」
「あっ、普通の人ね」
 ベンツは二人が通っている大学の近くの住宅街の中にあった、そこのある家の駐車場の中にあったが。
 家からたまたま休日と思われる太ったバーコード頭の眼鏡をかけた中年男性が出て来た、スラックスとシャツも普通のものだ。
 その男の人がパーマでヒョウ柄のスパッツを穿いて厚化粧のこれまた何処にでもいる様な中年女性を連れてだった。
 ベンツの運転席に乗った、そうして駐車場から車を出したが。
 その光景を見てだった、未可子は言った。
「別にね」
「何でもないだろ」
「どう見ても普通の人ね」
「ヤクザ屋さんには見えないよな」
「全然ね」
「確かに昔はそうだったかも知れないさ」
 ベンツはヤクザ屋さんが乗る車だったというのだ。
「けれど今はな」
「ヤクザ屋さんも減って」
「経済的な余裕もなくなってな」
 そうしてというのだ。
「ベンツなんて買えなくなって維持出来なくなってな」
「普通の人も高いけれど買って持つ様になって」
「変わったんだよ」
「そうなのね」
「そうだよ、今は別にベンツを見てもな」
「気を付けなくていいのね」
「そうだよ、高級車でもな」
 それでもというのだ。
「そんな呪いがかかっている様にだよ」
「警戒することはないのね」
「そうだよ、落ち着いていこうな」
「そうするわ」
 確かな声で頷いてだった。
 未可子はベンツを怖がらなくなった、そうして普通に見る様になった。そしてヤクザ屋さんも確かに滅多に見なくなったことにも気付いた。


ベンツが怖い   完


                  2022・10・23
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