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鶴柿
第一章

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                鶴柿
 山口県の八代に伝わる話である。
 秋になり柿の実がどれもたたわに実っていた、それでこの地の者達はその柿をもいでは食べていた。 
 柿の味には満足していた、だが。
 八代の者達はその柿を食べて少し苦い顔になっていた。それはこの地の柿が渋いからではなかった。
「ここの柿は美味いんだがな」
「ああ、種が多いな」
「他の場所の柿と比べてな」
「それが駄目だ」
「全くだ」
 その種の多さに辟易して苦い顔になっていたのだ。
「どういう訳かな」
「ここの柿は兎に角種が多い」
「どうしてこんなに種が多いんだ」
「これさえなかったらここの柿は周防一だが」
「毛利のお殿様も言っておられたな」 
 藩主もというのだ。
「八代の柿は種が多いとな」
「そう言っておられたな」
「それがどうしてもよくないと」
「それさえなかったらってな」
「本当に種が多い」
「どうしたものだ」
 その柿を食べながら苦い顔になっていた、兎角だ。
 八代の柿は種が多く困っていた、その中で。 
 その八代の百姓の一人である順吉ひょろ長く色黒で痩せた顔で牛蒡の様な外見の彼は空を見て言った。
「あそこに親子の鶴がいるな」
「そうだな」
「柿の木の上を飛んでるな」
「柿が食いたいみたいだな」
「そうだな」
 他の村人達も気付いた、見れば親子二羽の鶴達は空の柿の木の上をぐるぐると回っているだけだ。そして。
 木では烏達だけが止まり食べている、順吉はそれを見て言った。
「鶴は大きいからな」
「ああ、だからな」
「柿の木には止まれないからな」
「だから柿の木は食えないな」
「それでも食いたいんだな」
「そうなんだな」
「ああ、だったらな」
 順吉はそれを見て言った。
「ここは何個か木から取ってな」
「そうしてか」
「鶴の親子に食わせるか」
「そうするか」
「烏は普通に食ってるしな」
 見れば順吉達が近付いても怖がらない、ただ柿を食っている。
 順吉はそこから柿を取って地面に置いた、そうして空にいる鶴達に話した。
「おい、これ食え」
「取ってくれたんですか」
「そうですか」
「ああ、そうだ」
 空の鶴達に答えた。
「お前さん達喋るなら丁度いい、食え」
「有り難うございます、それじゃあ」
「頂きます」
「おいおい、鶴には優しいんだな」
 ここで木に止まって実を食べている烏が言ってきた。
「おいら達には柿の木獲る時はあっち行けなのにな」
「おめえ等は何時でも食えるだろ」
 順吉は烏にも言った。
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