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展覧会の絵
第九話 聖バルテルミーの虐殺その六

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「あるよ。人間だから」
「人間なら感情はあるよね」
「そう。表に出せないだけで」
「そしてそのことがなんだ」
「僕にできないことなんだ」
「それはずっと前からかな」
「うん。子供の頃からね」
 まさにその頃からだというのだ。彼が表情や言葉に感情を見せないのは。そしてそのことをだ。彼は自分からその感情の見られない声で話したのである。
「そうなんだ」
「成程ね。けれどね」
「けれど。何かな」
「佐藤君も。できないことがあるんだね」
 和典はこのことをだ。十字に言ったのだった。今度は。
「御料理にそれに」
「そう。感情を出すことはね」
「人間は完璧でないから」
「できないことはあるんだよ」
 例えそれがだ。十字であってもだというのだ。
「こうしてね」
「そうなんだね。何でもできるって思ったけれど」
「僕は神様じゃないから」
 これは絶対だった。彼にとっては。
 そしてその絶対のことをだ。今和典に話したのだった。
「神の僕であってもね」
「キリスト教の神様に」
「そう。あくまで僕だよ」
 彼はそうだというのだ。
「僕でしかないんだよ」
「そうなんだね。じゃあ」
「また絵を描くから」
 絵の話になった。今度は。
「何の絵かは決めていないけれどね」
「名画かな」
「いや、オリジナルの絵をね」
 今度描くのはだ。そうした絵だというのだ。
「描こうと思ってるんだ」
「オリジナルだね」
「そう、その絵をね」
 彼自身の絵をだ。今度は描きたいというのだ。
「風景画か。人物画か」
「どちらにしても。君自身の絵を」
「今から描こうかな」
 言ったすぐ傍からだった。彼は思い立ったのである。
「僕の絵をな」
「じゃあ。僕はこの絵を描いていくから」
「外に出るよ」
 十字は言った。
「外で。題材を見つけてね」
「そして何かを描くんだね」
「この学校はいい風景と人に満ちているから」
「題材には困らないね」
「都合のいいことにね。それじゃあ」
「行って来るよ」
 こう行ってだった。十字は自分の筆に油絵の具を持ってだ。そのうえでだった。
 グラウンドの一つに来てだ。そこでだった。
 隅に座ってそうして目の前のグラウンド、そしてそこを走る陸上部の部員達を描く。そうしはじめたのだ。
 そしてサッカー部もだ。見ればだ。
 望もいた。彼は走りながらだ。仲間達にこんなことを話していた。
「何かさ、いつもな」
「春香ちゃんかい?」
「あの娘がどうしたんだよ」
「ああ、弁当にトマト入れてくるんだよ」
 このことをだ。彼はうんざりとなった顔で仲間達に話したのだった。
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