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俺様勇者と武闘家日記
第2部
ランシール
お祭りの夜の胸騒ぎ
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お祭りの夜の胸騒ぎ

「待って!! 私のお財布返して!!」
 財布を盗んだ犯人の背中に向かって叫ぶ私の声に、周囲の目がこちらに集まった。それにユウリが反応したかどうかはわからないが、空気が一瞬止まった気がした。
 でも、それらを気にしている場合ではない。私の全財産が盗られたのだ。私は再び集中し、星降る腕輪の力を発揮させて走り続けた。
「……いたっ!!」
 曲がり角に入ろうとしている男の後ろ姿が視界に入ると、私はさらに速度を速める。
 だが、気づくのが少し遅かったようだ。曲がり角を過ぎたところで、スリの男はどこか路地裏にでも逃げ込んだのか、いつの間にか消えていた。
 途方に暮れながらとぼとぼと広場に戻ろうとしていると、突然ポン、と後ろから肩を叩かれた。
「っ!?」
 私は驚いて後ろを振り向く。するとそこには、二十代くらいの優しそうな風貌の男性が立っていた。
「君、さっきスリに遭った子だよね? ひょっとしてこれ、君の?」
 そう言うと男性は、見覚えのある財布を私の目の前に見せた。
「そっ、そうです!! それ、私のお財布です!!」
 興奮気味にそう言うと、男性はその財布を私に手渡した。
「さっきそこの道ですれ違ったときに、怪しい男が通りかかったからさ。呼び止めて問い詰めたらあっさり白状したよ」
「そうなんですか……。ありがとうございます」
 心底ほっとしたように肩を落とすと、私は男性にお礼を述べた。
「こういう人の多い賑やかなときは、悪い人もいるから気を付けなよ」
「本当にありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか……」
 すると、男性は笑顔を絶やさないまま、当たり前のように私の肩に手を回した。
「え!?」
「ここを真っ直ぐ行ったところに、僕のお店があるんだ。よかったら、ちょっとだけでも見ていかないかい?」
 さらにいきなり至近距離で話しかけられ、思わず躊躇する私。今まで経験したことのない男性との接し方に戸惑いつつも、バハラタで拐われた時のことを思いだし、若干の警戒心を働かせる。
「あの、そこってどういうお店なんですか?」
「ああ、実はこの町でも珍しい自家製ケーキ専門のお店なんだ。君みたいに可愛い子ならきっと気に入ると思うよ」
「ケーキのお店ですか!? なら行きます!!」
 さっきパンケーキを食べたばかりだというのに、長いこと甘いものに飢えていた私のお腹はパンケーキだけでは満たされなかったようで、男性の言う『ケーキ専門店』という言葉につい食欲が抑えきれず、即答してしまった。
「よかった。ならさっそく行こう」
 私の反応を素直に喜んだ男性は、そのまま店へと案内してくれた。
 だが、お店へと続く道は、とても狭く、暗かった。こんなところに本当にケーキのお店なんかあるのだろうか? と少し不審に思ったが、親切
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