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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師 その2
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校が入っていく。
木綿綾織りのM69夏季野戦服に、熱帯用の編上短靴を履いた男が上座に声を掛ける。
深緑色の中尉の野戦階級章を付け、将校を示すサムブラウンベルトを締めている。
「どうしますか……駐留軍司令の粛清も彼の独断。
参謀本部の方針に不満で勝手に突っ走てるんですよ」
前日、(もたら)された戦術機による首都壊滅の報は、より緊張を高めた。
「己の力を東欧諸国に示して主導権を自分たちの物にしようと……」

 上座に腰かける男が口を開いた。
姿格好は、灰色の上着と太い赤色の側章が二本入った濃紺のズボン。
夏季将官勤務服を着て居り、大将の階級章を付けている。
 男は、ソ連赤軍参謀総長であった。
彼は、臨時の『前線視察』と言う事でウラジオストックに先立って入市していた。
結果的に、ゼオライマー襲撃から運良く難を逃れていたのだ。

「ゲルツィン大佐か……」
参謀総長は、不敵の笑みを湛えた。
「思い通りに動いてくれたってことさ」
若い中尉は、予想外の答えに絶句した。
「えっ……」
勢いよく参謀総長は立ち上がる。
「同志ロゴフスキー……、ゲルツィンみたいな軍人は、そういう行動しか取れない。
だからこそ、使い道がある」
立ち尽くすロゴフスキー中尉の顔を見つめる。
「シュトラハヴィッツがはたして、どういう対応を取るか……。
ゲルツィンは、絶好の捨て石になる」




 ベルリン市街に続く国道を全速力で走り抜ける黒塗りの大型セダン。
車種は最新型のチャイカ・M14型。ソ連国旗が掲げられ、外国間ナンバーを付けている。
ZiL『114』モデルが2台、先導するチャイカの後を続く。
 車中の高級将校は、背凭れに寄り掛かられながら、後部座席に座っていた。
目深に軍帽を被り、ソ連赤軍大佐の制服を着た男は車窓を眺めながら独り(ごち)った。
「あれから4年か……時は早いな」
 ゲルツィン大佐は、目を瞑ると在りし日の追憶に(ふけ)る。
優秀な学識と技量を持ち、ギリシア彫刻を思わせる容姿端麗な青年を振り返った。



 1974年夏。暑い日差しが照り注ぐクビンカ基地。
首都モスクワより24キロの場所にあるこの基地には航空基地の他に建設途中の博物館があった。
BETA戦争前に計画されたが情勢の悪化で中止。
急遽、その敷地は戦術機の臨時訓練場になった。

 深緑のM69野戦服姿の男が地面に倒れ込む東独軍兵士に声を掛ける。
「貴様等がモスクワまで来たのは観光(あそび)の為か?それとも援農(てつだい)の為か……」
鼻血を流しながら、仰向けに倒れるレインドロップ迷彩服姿の青年士官。
教官役の軍曹は軍靴を響かせながら、彼の脇まで近寄った。
「い、いえ同志軍曹。自分は……」
「聞こえんな……」

 軍
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