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一九六九年の新婚旅行
第三章

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「南国のフルーツもあってね」
「マンゴーとかな」
「そういうのはあっても」 
 それでもいうのだ。
「そのままね」
「鹿児島だな」
「そうよね。ハワイなんてね」
「そんなイメージ何処にもないな」
「そうよね」
 二人で首を傾げさせた、それでだった。
 屋台で薩摩芋のソフトクリームピンク色のそれを買った時に店員に聞くとだ、店員は二人に話した。
「それ昔ですね」
「昔ですか」
「はい、ここが日本のハワイって言ってたのは」
 若い男性の店員は美来に話した。
「もうです」
「昔のことですか」
「前の世紀、昭和とかは言っていたんですが」 
 それでもという口調でそのソフトクリームを差し出しつつ話していった。
「僕の生まれる前ですね」
「それって本当に昔ですね」
「市役所の人達はアロハシャツ着てましたし」
「そうだったんですか」
「それで観光でもです」
「日本のハワイってですか」
「言っていたんです、けれど本当に昔で」 
 そう言っていたのはというのだ。
「今はそら豆ですよ」
「そうですか」
「このアイスは鹿児島名物ですけどね」
 薩摩芋のアイスはというのだ。
「ですが」
「それでもですか」
「本当に昔ですよ」
 こう美来に話すのだった、そしてだった。
 二人はその話を聞いてからも観光を続け鹿児島の焼酎を飲み名物のラーメンや豚の料理も食べた。勿論かき氷の白熊も食べた。
 そのうえで帰路に着いたが昴は鹿児島駅を発ったところで美来に言った。
「やっぱり新婚旅行にはな」
「行く場所じゃないわね」
「ちょっとした観光旅行で行く場所だな」
「国内のね」
 美来も答えた、二人は隣同士の席で並んで座って話をしている。昴は美来に気を使って彼女を窓際に座ってもらっている。
「そうよね」
「ああ、けれど昔はな」
「お祖父ちゃん達が言った通りにね」
「新婚旅行に行く様なところだったんだな」
「そうよね」
「時代が変われば行く場所も違って」  
 昴は美来に顔を向けて真面目な顔で語った。
「行く目的もな」
「変わるわね」
「そうだな」
「そうしたものね」
「旅行もな、けれど楽しかったな」
「鹿児島もね」
「いい場所だった、また行きたいな」
 今度は笑顔で話した。
「そうしたいな」
「そうよね」
「じゃあお土産も買ってるし」
「気持ちよく帰りましょう」
 美来も笑顔で応えた、そうしてだった。
 二人で実家のある街に帰った、美来は家に帰るとすぐに祖父母に鹿児島のお土産を手渡した。それはかるかんで二人共それを食べて新婚旅行の時の味だと孫娘に笑顔で話したのだった。


一九六九年の新婚旅行   完


                   2022・5・15
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