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一九六九年の新婚旅行
第一章

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                一九六九年の新婚旅行
 大学生の前田美来はゴールデンウィークに行く旅行の準備を進めていた、その彼女を見て祖父の賢一は孫娘に尋ねた。
「一体何処に行くんだ?」
「鹿児島よ」
 美来は祖父に答えた。
「鹿児島市とか鹿屋とか行って歴史の勉強するの」
「そうか、鹿児島か」
「ちょっと遠いけれどね」
 自分達が住んでいる街からはというのだ。
「行って来るわ」
「そうか、懐かしいな」
「そうよね」
 祖母の美代子も言ってきた、二人共白髪頭でにこにことした優しい顔立ちをしている。背中はまだしっかりとしているが全体的に老いが見られる。
「鹿児島って」
「わし等も行ったな」
「あの時にね」
「あの時って何時?」
 美来はそのややふっくらとした頬に細くはっきりした濃さの黒く長い眉と蒲鉾型の黒目がちの目に赤い大きな唇の顔で問うた。長い黒髪は波打つ感じでセットされており背は一五五程ですらりとしたスタイルでズボンが似合っている。
「一体」
「わし等の新婚旅行の時だよ」
 祖父は孫娘に笑顔で答えた。
「その時だよ」
「それって何時?」
「そうだな、まだ昭和四十年代でな」
「四十四年よ」
 祖母が祖父に話した。
「結婚式の後すぐに行ったでしょ」
「そうだった、あの時だ」
「そうだったわね」
「あの時は海外旅行なんてな」
「そうそう出来なくてね」
「新婚旅行もな」
「国内でね」
「鹿児島にも行けばな」 
 それでというのだ。
「南国だったな」
「そうだったからね」
「行ったな、あそこに」
「鹿児島にね」
「鹿児島に新婚旅行?それにしては近いわね」 
 美来は祖父母の言葉を聞いて目を瞬かせて言った。
「それはまた」
「いや、だからな」
「あの頃は海外旅行なんてそうそうだったのよ」
「解禁されてなくてな」
「お金もそこまでなくてね」
「私去年普通にハワイ行ったけれど」
 アルバイトで貯金をしてだ、そうして行ったのだ。
「それもなのね」
「とてもな」
「出来なかったのよ」
「そうだったのね、今時ハワイもすぐで台湾とかもね」
 こちらに行くこともというのだ。
「普通なのに」
「昔はそうだったんだよ」
「本当にね」
「あの頃はな」
「それが充分凄いことだったのよ」
「そうなのね」
 祖父母の話を聞いてだった。
 首を傾げさせてだ、こう言ったのだった。
「昔は」
「そうだったんだ」
「あの頃はそれで思いきり凄いところに行ったのよ」
「お金も使ってな」
「そうだったのよ」
「鹿児島は軽く行く感じなのに。新幹線で博多まで行って」 
 そうしてというのだ。
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