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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第73話 派閥と家族
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 宇宙歴七八九年八月一日 テルヌーゼン市

 間に合ったからよかった、というべきなのか。今後の精神衛生のことを考えて、この微妙すぎる空気から逃げ出すべきだったのか。

 月月火水木金金の爺様が、昨日の昼にいきなり『ジュニア、明日から三日間ほど休んでよい』とアルカイックスマイルで仏のようなことを言った時点で、何かあると勘繰るべきだった。そして一〇分後に、映話でレーナ叔母さんの浮かない笑顔を見て、逃れられない運命を悟った。

 早朝のハイネセン市ゴールデンブリッジ街一二番地。久しぶりというか、殆ど着たことがないスーツに身を包み、グレゴリー叔父一家を迎えに上がった。家族全員が乗れるような大型の無人タクシーを手配し、ハイネセン第二空港まで。そこからテルヌーゼン市へ数時間のフライト。

「少佐にもなって従卒みたいなことをやらせて悪いな、ヴィクトール」

 テルヌーゼンの空港について、四年前にお世話になった軍人系のホテルに腰を落ち着かせた後、俺はグレゴリー叔父にホテル内部にあるクラブラウンジに誘われた。照明が抑えられ、落ち着いたピアノの生演奏が流れるクラブラウンジの四人席で、グレゴリー叔父はウィスキーのロックを小さく俺に掲げて言った。

「ビュコック司令の下では、早々三日も連続では休めませんから逆に助かりました」
「あの人は相変わらずだな。ところで少しは用兵の何たるかを学ぶことができたかね」
「蛸の足の吸盤の一つくらいは掴めたかもしれません」
「そう思っているうちは、まだまだだな」

 はははっと、苦笑するグレゴリー叔父だが、レーナ叔母さんほどではないが浮かない顔をしている。勿論理由は分かっているし、それを言葉に出すほど野暮でもない。それを察して俺も着慣れないスーツで来たが、この季節に軍人系ホテルにスーツで来るというのは軍関係者ではないと自己主張しているようなものだ。クラブラウンジの大半の客が濃緑のジャケットか純白の礼服を纏っているので、グレゴリー叔父と俺はかなり浮いている。

「いい機会だからヴィクトールには話しておこうと思ってね」

 グラスをテーブルの上に置いたグレゴリー叔父はそう言うと、俺が知りようのない生まれる前の話を切り出した。ボロディン家の先祖は長征一万光年に参加した最初の一六万人の一人で、司法関係の職についていたが例によって社会秩序維持局と揉めて農奴階級に落とされたクチだったそうだ。

「だからレーナはアントニナに司法警察か弁護士になってもらいたかったようなんだ。あの性格だから弁護士向きだとは思ったんだが、本人が頑として軍に入ると言った。誰かが余計なことを言ったおかげで、専攻は全部合格だよ。結局、情報分析科を選択したと連絡が来た」
「……グリーンヒル少将閣下のご息女と同じですね」
「あぁ、より
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