第二章
[8]前話
「無論どうしてもという時だがな」
「オーディンに頼まれたり」
「トールだったりな、そしてわし自身もな」
ロキもというのだ。
「どうしてもという時にな」
「そうした時にね」
「宜しく頼む」
こう言うのだった、そうしてだった。
ロキはフライヤの館を後にした、そしてそれからもフライヤから羽衣を借りる時があった、ロキは常に礼儀を欠かさず。
どうしてもという時だけ借りた、そんな中で。
オーディン、他ならぬ主神で長い髭を生やし鍔の大きな帽子と身体全体を覆う服を身に着け槍を常に手にした隻眼の老神はロキに共に飲む場で問うた。
「ここぞという時はフライヤから羽衣を借りるな」
「他ならぬお主の為にもな」
ロキはオーディンに笑って返した。
「そうしている」
「そこでわしを言うか」
「その通りだからな」
「そうか、しかしお主には靴がある」
オーディンは飲みつつ言った。
「空でも海の上でも何処でも進める靴がな」
「あれか」
「あれがあるのにか」
「何故羽衣を使うか、か」
「あれだけ便利な靴があってもな」
「わざわざフライヤに借りてか」
そうしてとだ、ロキも言った。
「使うのはどうしてか、か」
「それはどうしてだ」
「あの靴を使っても歩く」
ロキはオーディンに答えた。
「そうだな」
「お主自身がな」
「歩かずとも走る、しかしそれではだ」
自分の足でそうすればというのだ。
「速さに限度がある、馬に乗ってもだ」
「自分でその靴で歩いていないからか」
「陸地だけしか歩けぬ、だが鷹になれば」
フレイヤが持っている羽衣を使ってというのだ。
「そうすればな、普通の鷹よりも遥かに速く飛べるのだ」
「速さか」
「そうだ、速さだ」
それだというのだ。
「それが違うからだ」
「だからあの羽衣を借りるか」
「急がねばならん時もあるな」
ロキはオーディンに不敵に笑って問うた。
「そうだな」
「確かにな、その時は多い」
オーディンもこう返した。
「そういうことだな」
「如何にも。速さは何よりも代え難い」
「急がねばならん時はとりわけな」
「だから借りる、これからもそうする」
「その度にフライヤへ多くの礼をしてもだな」
「それだけの価値がある」
あの羽衣がもたらしてくれる速さはというのだ、こう話してだった。
ロキはオーディンに酒を勧めオーディンも応えた、そうしてだった。
ロキはそれからもフライヤに何かあると羽衣を借りた、そのうえで鷹になり光の如き速さで飛んだ。その都度女神に多くの贈りものをしたが構わなかった、それだけの価値があると確信しているからこそ。
鷹の羽衣 完
2021・11・15
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