暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
ミンスクハイヴ攻略 その4
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 深夜2時過ぎ、ベルリン郊外の館にある電話が鳴り響いた
気怠(けだる)そうに受話器を取ると、話の相手は参謀次長のハイム少将であった
「どうした、こんな夜更けに……」
「同志議長、緊急事態です」
護衛に叩き起された時から、良からぬ内容である事は察知していた
「今から政治局会議を開くようでは間に合うまい……、貴様等に一任する」
近くに置いてある「ゴロワーズ」の紙箱を引き寄せる
両切りタバコを抜き出すと、火を点けた
「一時間くれ、頭が冴えたら俺も行く……」
前日遅くまで、経済問題に関して若手官僚と討議したのが不味(まず)かったか……
受話器を置くと、深い溜息をついた
露助(ろすけ)共は、俺に一時の夢も見させてくれぬのか……」
そう呟くと立ち上がり、護衛に指示を出す
「一風呂浴びた後、出掛ける。車を回して置け」
そう言い残すと、浴室に向かった

 東ドイツにとって喫緊(きっきん)の課題はBETAではなく、経済問題
1974年以降、ソ連の核使用は欧州の自然環境を悪化させた
まるで氷河期が訪れたような厳冬と天候不順
雪害に、冷夏……
 加えて、社会主義化した農業も状況を悪化させた
1958年の農業集団化を強行した際、自作農の農民は大量に西ドイツへ逃亡
この10年余りで、何とか一定の程度の水準まで農作物の収穫量を持ち直させた
その矢先の天候不順……
しかも、ソ連の核飽和攻撃という形で人為的に起きた
 一時的ではあるが生鮮食料品がスーパーから消え、食肉やチーズも店頭に並ばなくなった
国家保安省(シュタージ)はその際に、防諜機関の増大を進める計画を出す
「民心の動揺を避ける」との理由で、党に上伸したのだ
しかし、住民は既に様々な手段で西側の情報を仕入れているのだ
 
 身を清めた男は、この数年来の出来事を振り返った
前議長(おやじ)は、1971年に国家保安省の仕組んだ政変によって指導部を乗っ取った
ソ連留学経験もあり、彼等の意向に沿う政治を行った
 ソ連がBETA侵攻を受けた際、士官学校、教導隊の各種教育期間を短縮
其れだけに飽き足らず、予備役、後備役の動員を掛けた
彼は経済的観点から、前議長に掛け合ったが、聞く耳を持たなかった
逆に国家保安省と一緒になって恫喝してきたのだ
被害を受けなかったのは、党下部組織である自由青年団の統括者であった為であろうか

 偶々(たまたま)、上手く行った無血クーデター
それとて中共のハイヴ消滅による政治的混乱が起きなければ、為し得なかったであろう
シュトラハヴィッツ少将が行おうとしていた軍事クーデターは、ほぼ筒抜けだった
アベールはおろか、末端の将兵まで漏れ伝わっていた節がある
隙をついて、ハイム少将が議場を兵で囲む真似をしなければ、どうなっていたのか

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