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竜のもうひとつの瞳
第八十六話
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っぴばーすでーとぅ〜みぃ〜♪」

 陽気に歌いながらデコレーションケーキに蝋燭を乱暴に突き立てて火を付けていく。
蝋燭の数は二十一本、これはミンチになる前の年のクリスマスの光景だ。

 十二月二十五日は私の誕生日、どういうわけかクリスマスとバッチリ重なっていて、大学の連中や街の浮かれ具合が癪に障った覚えがある。
どうせリア充は聖夜じゃなくて性夜なんだろ? けっ! ……なんてやさぐれてたっけな。

 蝋燭の火を全部一人で消し、一人で拍手をしておめでとう、とか、ありがとう、とか一人芝居をしている。
そして徐にデコレーションケーキを持って立ち上がり、ベランダから思いきり外に向かって投げつけた。

 「どぅりゃああああ!!」

 ベランダの真下は芝生になっていて、そのちょっと先は道路になっている。
マンションの五階に住んでることもあって、こんなところからケーキを放り投げれば通行人が被害を被ることは分かっていたけど、この時は夜だ。
さっさと部屋に入ってしまえば分かるまい。

 ケーキをぶん投げてぴしゃりと戸を閉める。
ややあって、ぎゃー、というおっさんの悲鳴が聞こえたけれど、私は聞かなかったことにした。

 用意した御馳走もそのままに、私はベッドに転がる。

 中流家庭に育った私は、小さい頃から親に愛されない子供だった。
虐待こそ無かったと思うけど、妹ばかりを可愛がって、私にはあからさまに分かるくらいに除け者にしようとした。
私には双子の弟がいるらしいけど、その弟は子供のいない遠い親戚に養子としてあげたらしい。
だから、一番近い兄弟である片割れの顔は見たことが無い。

 いいお姉ちゃんでいなければならなかった。いいお姉ちゃんでなければ、私の居場所は余計に無かったから。
可愛くもない妹を必死で愛しているふりをして、親の感心を惹こうともした。
けれど、結局は無意味で妹も我侭なだけで……耐えられなかった。
頑張って小学六年生までは耐えてきたけど、中学に上がる前に父親が転勤で引っ越さなければならないことになって、
そこでお金は出すから一人で暮らしてくれと家族の輪の中にもいられなくなってしまった。

 虐待はないとは言ったけど、こういうのをネグレクト、って言うのかもしれない。
完全に育児放棄ってわけでもないから心理的な虐待って言うのかな?
関心は無かったけど、とりあえず最低限の義務は果たしてくれたとは思う。
授業参観にも一度も来てくれたことはないし、家庭訪問も迷惑だから来ないでくれと断ってたけどさ。
父母面談なんか来たことも無い。妹は全部参加してたよ、運動会だって文化祭だって来てたし。
でも、両親も殴る蹴るとか暴言を吐くとかそういうのは無かったし、ただ私に無頓着だったから……まだマシだったのかもしれない
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