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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
欺瞞
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 赤軍総参謀本部直下のGRUはKGBやMVDと違って、ソ連共産党の影響を受けない
情報のほぼ全ては、国防省内に留め置かれるのが暗黙の了解
GRU本部長は参謀次長を兼任し、主に対外工作を専門とする部門を管轄する
独自の教育機関として軍事外交アカデミーを持ち、対外工作員養成や駐在武官の教育を担う
 嘗てモスクワより移転する前は《水族館》と称された庁舎に盤踞(ばんきょ)した
二重の防護壁で守られ、鏡面加工のガラス張りという異様な伏魔殿
そこでは、かの国際諜報団・ラムザイ機関(ゾルゲ諜報団)をも自在に操り、独ソ戦を有利に進める手順を整えた
今は、惨めに極東まで落ち延び、当該地にあるGRUの支部庁舎に臨時本部を移した

「同志大将、ヴォールク連隊を持ってハイヴ攻略後、全世界に対して成功を宣伝すると言う話は本当ですか」
参加者の一人が上座に座る男に問うた
 彼が口にしたヴォールク連隊
ヴォールク(ВОЛК/ volk)とは、露語で狼を意味する
戦術機108機、戦闘車両240輌、自動車化狙撃兵(歩兵)を含め、総員4300名を有する
野獣の名前を授けられた同連隊は第43戦術機甲師団麾下でミンスクハイヴ攻略作戦の主力部隊になるはずであった
 しかし、日本帝国が秘密裏に準備した超兵器ゼオライマーの登場によって状況は一変する
僅か数時間余りでハイヴそのものを消滅させ、その存在意義を問われた

「我々が実際攻略する必要はない……。
NATO或いは社会主義同胞の諸国軍が得た物をその様にすり替えれば宜しいのでは」
男は、背凭れより身を起こす
「本作戦は、参謀総長たる私の一存に任せてくれ」
そういうと、男は立ち上がり、部屋を出て行く
「同志大将、勝算は……」
掛け声を背にして無言のまま、ドアを閉めた

 一貫して、今回の東ドイツへの政治介入を反対した赤軍参謀総長
彼は、パレオロゴス作戦対応に苦慮した
作戦開始が目前に迫る今、東欧諸国に離反されてしまっては全てが水泡に帰す
試算では、単独で実施した場合、ソ連地上部隊の現有戦力の8割を失う可能性があるハイヴ攻略
 一縷の望みを託して送ったシュトラハヴィッツ少将への手紙
功を奏したようだ……
上手く彼等を利用せねば、ソ連邦は雲散霧消(うんさんむしょう)するであろう
その様な思いを胸にして階段を登り切り、屋上に出た
懐中より口つきタバコを取り出すと、火を点ける
(ゆる)せ、シュトラハヴィッツ……」
立ち昇る紫煙を見つめて、ひとり呟いた


 屋上で紫煙を燻らせていると、一人の男がやってきた
「同志大将、ご用件は……」
敬礼をする男を横目で見る
「伝令を用意して呉れ。
なるべく職責に忠実な人間が良い」
深くタバコを吸いこむ
「はい……」
男の方を振り返
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