暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
牙城
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西ドイツ・ハンブルク 4月28日

 マサキは日本総領事館の一室で、次の行動に対して備えていた
机の上には手入れ用具と銃弾が散乱し、今し方まで拳銃の手入れをしていたことを伺わせる
重いセラミック製の防弾チョッキを長袖の下着の上から着け、美久に手伝わせた
体に合わせなけば、効果は半減する
無論、次元連結システムのバリアを使えば、防弾に過不足は無い
だが手札を隠すために敢て、重い甲冑(ボディアーマー)を着たのだ

「鎖帷子でも着れば、あとは抜かりないか……」
そう独り言ちる
美久が心配そうに応じた
「さすがに相手も警戒しますから……」
「奴等に分からせるのさ。一片の信用も無いとな」
不敵の笑みを浮かべる
「なあ、あの帽子男が護衛に着くと言うのは本当か」
 雨でもないのに草臥(くたび)れたトレンチコートを着こむフェドーラ帽姿の男
アタッシェケースを下げて、歩けばただのサラリーマンにも見えなくはない
意味ありげな事を言う男に関して、彼は不信感が拭えなかった
 あの男から感じる、不気味な感じ……
明確な政治的立場も無く、信念も無いように見える
日本という国が形だけ残れば誰とでも手を組み、裏切る態度……
幾ら名うてのスパイとはいえ、個人に諜報を頼る日本政府……
些か不快感を憶える
 ズボンのマフポケットより『ホープ』の紙箱を取る
服を着つける美久の邪魔にならぬように、口に紙巻きを咥え、火を点ける
着付け易い様、案山子の様に両手を広げて立ちながら思う


 小国日本が、国際的地位を得た理由
それは信頼故ではなかろうか
無論、四方を大海に囲まれて容易に侵略を受けにくく、また然程(さほど)大陸とも遠くはない地の利
10世紀にも及ぶ封建社会を経て、契約や法概念という近代化の基礎が整ったのもあろう
 それ以上に、米国から見て重要視されたのもあろう
19世紀中葉、米国は通商の観点から日本の経済的発展や政治的安定性に注目
早くから友好的な手段で日本との通義を望んでいた
 この事実は、北方の豺狼(さいろう)、ロシアとは決定的に異なる
不幸にも4年の歳月をかけた大戦で、干戈を交えたがそれとて一度だけ
事あるごとに国境周辺に出入りし、僻地を脅かしたロシアとは違う
 確かに、原子爆弾や大都市圏への絨毯爆撃など惨たらしい事も行った
だが、それは堂々と宣戦布告をして正面から戦った日本も同じではないか
口では賠償や謝罪などとは言わなかったが、ガリオア資金やフルブライト奨学金という形で返してくれたではないのか
工業発展の為にデミング博士の様な人材を送り込んでくれた点も大きい
 自身に薄暗い感情として、米国への憎悪がある事は否定しない
だが、冷静に考えればそれを何時まで引きずるのだろうか
既に戦争に関してはサンフ
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