暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
首府ハバロフスク その4
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 西ドイツの臨時首都ボンにある連邦国防省
そこにある一室では、密議が始まっていた
約20年ぶりの壁の向こうの連絡に、彼等は困惑した
党の方針で追放された旧国防軍人からの密書の内容は俄かに信じがたかった
 出席者の一人が、濃紺の空軍士官制服を着た人物に問うた
左胸に略綬と首からダイヤモンド付騎士鉄十字章を下げている
国法により、鉤十字の紋章から柏葉に置き換えた勲章に変えられてはいるが、紛れもない真物(しんぶつ)
この男が並々ならぬ戦功を重ねてきた証
「シュタインホフ君、君はどう思うのかね……」
彼は立ち上がると、面前に居る男に返す
戦時中に200機のソ連空軍機を撃墜したとされる男の目が鋭くなる
「これはKGBの策謀の可能性は御座いませんか」
濃い灰色の背広を着た老人が口を挟む
濃紺のネクタイを締め、白色のシャツの襟から深い皴が畳まれた首筋が覗く
「儂もその線は考えた……」
色の付いた遮光眼鏡越しに、彼の顔を伺う
「だが、手紙の差出人にはフランツ・ハイム参謀次長の名まであるのだ」
右手に持った手紙を、衆目に晒す
 周囲が騒がしくなる
「東の参謀次長の直筆の手紙ですと!」
「そんな馬鹿な……」
杖で床を一突きする
音が室内に響く
「諸君、静粛にし給え」
周囲の目線が集まる
「では良いかな」
杖に両手を預けると、男は話し始めた
「ハイム参謀次長がこの手紙を送って寄越したと言う事は、奴等の仲にも何らかの方針変換があったと言う事ではないか」

「閣下、それで……」
閣下と呼ばれた老人は、男の質問に応じる
「我等から出向くのは、危険だ。
国防軍(ヴェアマハト)の再建……その様な米ソ両国の疑念を拂拭(ふっしょく)出来ぬ」
 1945年のあの日、ドイツ国防軍を思い起こす
新型爆弾を前に、彼等の奮戦虚しく連合国に対し城下の(ちかい)を結んだ
首都ベルリンは、米ソ英仏の4か国に分けられ、国土も分断された
何れは()(いつ)にして立ち上がろうと考えては来たが、既に30有余年が過ぎた……

「そこでだ。奴等の中に乗り込む算段として、適当な人材を見繕う」
「そんな人材、何処に居りますか……」
老人は淡々と告げた
「米国の指示で立ち上げた戦術機部隊の連中でも交流名目で送り込む。
どうせ、役立たずの烏合の衆だ……、こういう機会に汗をかいてもらおうではないか」
眼鏡越しに鋭い眼光で睨む
「あの愚連隊には、ホトホト手を焼いていましたからな」
男達は一斉に、室内に響くほどの哄笑を発した 
「各所から兵を集めて米軍に指導させる……、(さなが)ら昔の陸軍教化隊。
……其れも、閣下の発案でしたな」
参謀顕章を付けた男が、呟く
老人は無言で頷くと、彼に返答した
「奴等の中隊長に、ハルトウィック
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ