暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
首府ハバロフスク
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 マサキは自室で、佇んでいた
持ち込んだ製図版で、記憶の中にあるローズ・セラヴィーの図面を、書き起こしていた最中であった
鉛筆を置くと、ラッキーストライクの封を開け、茶色いフィルターが付いたタバコを抜き取る
ガスライターを胸元より取り出し、口に咥えたタバコに火を点ける
紫煙を燻らせながら、思案する

 暫しロシアの歴史を思う
史書によれば、およそ1000年前、長らく無主の地であった彼の地に小規模な国家が勃興
東ローマや当時の回教国、蒙古人との戦乱の後、300年の軛を受ける
そして地球寒冷化の影響もあって蒙古人の勢力が弱体化した後、独立を取り戻す
数度の政変の後、300年ほどロマノフ朝が支配した
 今一度彼等の立場になって考えてみる
両大戦にしても、ナポレオン戦争にしても、ジンギスカンの存在も……
彼等の視点に立つと全て、悉く被害者の目線なのだ
 事あるごとにナチスや日本帝国主義を持ち出し、自分達の加害の事実を薄める
ポーランドの指導層を惨殺し、ベルリン市民を辱め、金銀財宝を略奪
満蒙の地にあった日本軍将兵180万をシベリア奥地に誘拐し、奴隷として扱って虐め殺す
僅かばかり良心の呵責に苦しんでるゆえであろうか……
既に影も形もない「ナチス」や「日本帝国主義」を持ち出し、清涼剤にしているのであろう……

 嘗て暮らした元の世界の日本は、ロシアの存在と言う物は常に悩みの種であった
およそロマノフ朝が、満洲王朝・清の始祖の地を侵略し、黒竜江の源流を奪取
彼等の言う沿海州に到達した時より、その禍に苦しんだ
思えば、160年前の文化年間(1804年から1818年)の頃より蝦夷に海賊が出入りし、沿岸を焼き払った
同地より漁民や化外の民を拉致、抑留した
その事実は、光格帝の叡聞(えいぶん)に達し、幕府に下問が在ったと伝え聞く
 明治維新が無かったこの世界でも、恐らく維新以前は同じであろうと考えることが出来る
それにしても、この世界にある日本は危機が無さすぎる
北樺太をソ連領のままにしておくのだから……
 思えば、樺太もすでに13世紀には日本人が支那人や蒙古人に先んじて居住し、影響力を及ぼした地域であった
幕末の川路 聖謨(としあきら)の日露交渉の際に『雑居地』と認めたのがまずかった
同年代のチェーホフの旅行記などを見れば、彼等の認識は日本領……
樺太は流刑地の一つでしかなく、全くと言っていいほど経済的発展は無かった
ロシア革命の際に保証占領したまま、全島を日本領にして置けば、樺太での惨劇は防ぎえたであろう……
過ぎた事とは言え、悔やまれる


 その様な事を思案していると、美久が熱い茶を持ってきた
『ロンネフェルト』(Ronnefeldt)というメーカーの紅茶
甘い柑橘系の香りが、鼻腔を擽(くすぐ
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