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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
恋篝 U
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、その儚げな瞳は、真っ直ぐとそれを見据えていた。

白雪は花火から視線を外すと、キンジに問い掛けた。


「……キンちゃんはさ、火って、嫌い?」
「いきなり何を突拍子もないことを言い出すんだ、お前は……」
「嫌い? 嫌いじゃない?」


真理を探るような声色で──。


「人は本能的に火は苦手だと思うぞ。特に日本人は、恐怖を感じる遺伝子が多いらしいからな。俺は苦手じゃないが」
「そっか、良かった。……あっ、消えちゃったね」
「まだあるから……、あ。こっちも消えたな」


花火とは、つくづく酷い造形物だと思う。
日本人の深層心理に訴えかけ、否が応でも『儚い』という感性を想起させてしまうから──キンジも白雪も、胸中に生まれたこの感情に、心を寄せずにはいられない。

それでも、その花火だった(・・・)残骸を放り捨てて、またその愚行を何度も何度も繰り返す。その度にこの感情はどんどん湧き出て、それをいつか終えるとき、まるで──激しく火花を散らし、果ては散りゆく花火のように、霧散するのだ。


「……さて、これで最後だな。線香花火だ。白雪、お前がやれ」


キンジは残骸の後処理をしながら、最後に残った線香花火の1本を、白雪に手渡した。
白雪はそれを受け取ると、ただそれを呆然と眺めている。何かを脳裏に焼き付けるような、そんな眼差しで。


「ねぇ、キンちゃん。これ……残しておいてもいい?」
「別に構わんが、何でだ」
「今日の、キンちゃんとの思い出にしたいから」


あぁ──、実に白雪らしい答えだ。とキンジは思った。
断る理由など無いのだ。それが彼女らしいとあらば、それが彼女の性格そのものなのだろう。
一点の穢れすら見えないような純白を、染めたくはなかった。

自分の都合で『花火は燃やすモノだろ』とか、そんな話じゃなくて。その《物》が白雪にとって《確かな記憶》になるのなら、キンジはそれでもいいと思った。
だから──そんな彼女を守りたいのだ。


「……あと。あと、1つだけ。お願いしても、いいですか?」


そう問い掛けた彼女の声は、嫌に震えていて。


「……これまでも、だけど、これからも──」


──私だけを、見ていてください。


夜闇に融けてしまいそうなか細い声は、キンジの耳にしっかりと届いていた。ただ、その意味を理解するのが気恥ずかしくて。
そんな2人を嘲笑うような大輪の菊の華が、夏を先取りした。


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