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無念を乗り越えて
第五章

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「全く、何時までも自惚れて」
「そんなのだから二年連続でシリーズ四連敗するんだよ」
「今年巨人の優勝はないわ」
「そんなのあってたまるか」
「巨人の優勝だけは絶対に嫌よ」
「あってたまるか」
「二人共そのことは同じだな」
 父はおとそを飲みつつ子供達に言った。
「本当に」
「いや、それはね」
「もう当然でしょ」 
 二人で父に答えた。
「巨人なんて大嫌いよ」
「好きになる筈ないよ」
「巨人はカープの敵よ」
「阪神の敵だよ」
「あのチームに負けるのは絶対に嫌よ」
「何があっても」
「今年はケチョンケチョンにしてやるわ」
「ギッタンギッタンにしてやるよ」
 二人は完全に息を合わせて言った。
「巨人をやっつけて優勝だ」
「そうしてやるわ」
「去年も聞いたな」
 父は実際に去年の元旦のことを思い出した。
「そうだったな」
「その前の年もだったわよね」 
 母も言ってきた。
「二人共こうだったわ」
「とりあえず千佳が物心ついてからだったな」
「ずっとこうよね」
「阪神とカープのこと話して」
「そうしてよね」
「巨人のことも言うな」
「絶対に優勝させるかって」
 その様にというのだ。
「そう言ってね」
「お互いでも言い合うな」
「そうなのよね」
「しかしな」
 父は自分達の子供達を見つつ微笑んで言った。
「幸せだな」
「そうね、ここまで好きな対象がいて必死ならね」
 母も笑顔で頷いた。
「幸せね」
「今年も幸せに過ごせそうだな、二人共」
「成績もいいしお友達も多いしね」
「そうしたことも充実しているしな」
「幸せに過ごしてくれそうね」
「おみくじ大吉だったよ」 
 まずは寿が言った。
「いいことばかり書いてあったよ」
「私もよ」
 次に千佳が言った。
「そうだったわ、大吉ならカープ優勝よ」
「そこは阪神だろ」
「カープしかないでしょ」
「阪神に決まってるだろ」
「厳島大明神のご加護があるのよ」
「ならこっちは西宮だ」
 二人はここでまた言い合った、だが決して取っ組み合いにはならず二人共こうも言うのだった。
「巨人だと絶対に許さなかったぞ」
「あのチーム応援していたら思想改造してるわ」
「まだカープだからいいけれどな」
「阪神だから大目に見てあげるわ」
 このことも言うのだった、そうしてだった。
 二人はおせち料理もお雑煮も楽しんだ、そのうえで今年こそはとそれぞれ誓った。お互いに優勝は言っても相手のチームをけなすことはなかった。


無念を乗り越えて   完


                  2021・12・30
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