第三章
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「そうでした、ですが」
「そこで、ですか」
「信仰に目覚められて」
「そうしてなんですね」
「教会に入り奉仕活動を行ってです」
そうしてというのだ。
「神学をまなびまして、キリスト教を」
「そうしてですか」
「牧師さんになられたんですか」
「そうだったんですね」
「そうです、そしてこの街の教会に来ました」
そうだったというのだ。
「そうした次第です」
「そうでしたか」
「元はヤクザ屋さんだったとは」
「そうだったとは思いませんでした」
「はい、ですが迷惑ですね」
牧師は寂しい笑顔でこうも述べた。
「入れ墨者なぞ街にいては。ですから」
「いやいや、わし等にとって牧師さんは牧師さんです」
彼を呉のテツだと言った老人が答えた。
「優しくて頼りになる」
「そうなのですか」
「前はヤクザ屋さんでも今は牧師さんですね」
「はい」
「人間過去はいいです」
こちらのことはというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「このまま街にいてくれませんか」
牧師に切実は声で頼んだ。
「そうしてくれませんか」
「そうしていいですか」
「お願いします」
「俺からもお願いします」
街の他の住人も言ってきた。
「どうか行かないで下さい」
「前はヤクザ屋さんとかどうでもいいです」
「牧師さんは牧師さんです」
「牧師さんみたいないい人他にいませんよ」
「子供だって自分から川に飛び込んで助けてくれました」
「そんな素晴らしい人にはこれからもいて欲しいです」
「どうかお願いします」
こう言って牧師を引き留めた、そして彼もだった。
街の人達の言葉に心打たれ残ることになった、いつも人の為に動き優しく頼りになり自分の身を挺して人を助ける彼の過去はどうでもよかった。
彼は街に残り人々の相談に乗り奉仕活動を行った、ある日朝に自分の教会の前を掃除している彼にだった。
川で溺れていて彼に助けられた子供が登校中に来た、子供は彼の姿を見ると満面の笑顔で挨拶をした。
「牧師様、おはようございます」
「はい、おはようございます」
牧師はその子供に優しい笑顔で応えた、そうして彼を笑顔で見送った。見送られた子供は彼に手を振って応えた。そんな彼に街の人達は今日も暖かい笑顔を向けた。彼自身が誰よりもそうであるからこそ。
牧師の背中 完
2021・12・23
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