風船
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シュが走っており、その左手には風船が、右手には透明な水晶玉が握られている。
実はハルトもまた大道芸を生業としていることなど知る由もなく、清香は新鮮味を感じていた。
ピエロはしばらく、目の前に立つ唯一の客を見つめた。大きく目を見開き、まじまじとコヒメを凝視している。
「?」
自身を凝視するピエロに対し、コヒメはねだるように首を傾げた。
傍から見れば通報したくなるような絵面だが、コヒメは彼の一挙手一投足を見守っている。
「あれ? ねえ、さっきの! さっきの、もう一回見せて!」
コヒメはピョンピョンと興奮しているようだった。
やがて口元を歪めたピエロは、ゆっくりと頷いた。
ピエロは風船を持ったまま、体を動かす。風船は揺れることなく。そして、水晶玉は少しもその位置を動かすことはなかった。
足を動かし、体を大きく回転させるピエロ。
だが、手首を捻り、水晶玉、風船はほとんど動かない。
そのあまりの柔軟性に、清香は思わず舌を巻いた。
「すご……」
「すごいすごい!」
コヒメが飛び跳ねながらピエロを指差す。
まだ、ピエロのパフォーマンスは終わらない。
軽やかなステップに続くムーンウォーク。水晶玉と風船を中心に円を描く動きに、思わず唖然となった。
そこからのバク転。
またしても、風船と水晶玉は動かない。
「ほ、本当はこれ、私たちが幻覚を見せられていて、水晶玉も風船も立体映像、なんてことはないよね?」
「きよか、夢がないね」
「うっ!」
思わずリアリストな視点になっていた清香へ、コヒメの言葉が突き刺さる。
「そ、それより、コヒメちゃん、もっと見てみよう」
清香はコヒメの痛々しい視線を、ピエロへ促した。
ピエロの動きはどんどん大きくなっていく。
水晶玉と風船を動かさないまま、バク転、ブレイクダンス。
やがて、無音の環境は、彼の靴底の音に支配されていった。
そして。
「す、すごい……!」
清香は思わず感嘆した。
一方、初めて大道芸を目撃しているコヒメは大興奮で拍手を送る。
「すごいすごい! ねえ、きよか! わたしもこれやってみたい!」
「こ、これ……正直言って刀使の中でも出来る人限られてくるんだけど……」
困惑しながら、清香は財布を取り出す。
心もとない金額のみが残されたそれを見下ろして、清香はため息をつく。
「う……お金、もうあんまりない……」
憂鬱になっていく清香とは真逆に、コヒメはどんどん目を輝かせていく。
パフォーマンスの最後に、ピエロはとうとう水晶玉を放り投げた。
それが体と着脱可能なものという当たり前の事実に驚きながら、それは清香の手元に収まる。
「えっ!?
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