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昔の江戸っ子爺さん
第四章

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「健康に悪いから」
「だからそう言わないでね」
「その江戸っ子気質認めたら?」
「そうしたら?」
「認めないわよ。九十になって私の子供出来てもそれなら認めてもいいけれどね」
 流石にそこまで年季があればとだ、円香は言った。そして。
 実際にだった、十年後。
 円香は高校を卒業し大学に入りそちらも卒業して就職し結婚してだった。独立して夫婦の家を持ってだった。
 子供が生まれて実家に帰った時にまだ健在の曾祖母と祖父母そして両親に自分と夫の間の息子を見せて。
 曾祖父にとなったが。
 義龍はふらりと家に帰ってきて曾孫夫婦とその息子を見て笑って言った。
「元気で生まれて何よりだ、ものごころついたらひいひい祖父ちゃんが蕎麦と風呂をご馳走してやるから楽しみにしてろ」
「噛まないでしかもよね」
「熱い風呂にすぐだ」
「そうよね、九十になってもね」
「当たり前だろ、俺は江戸っ子だぞ」
 それでというのだ。
「九十だろうが百だろうがな」
「お蕎麦は噛まないで」
「風呂は熱いのをさっと入ってな」  
 そしてというのだ。
「宵越しの銭は持たねえ、思ったことは言う」
「火事と喧嘩なのね」
「そうだ、嘘は吐かないぞ」
「わかったわ、じゃあそのままずっといることね」
「当たり前だ、これで九十生きてきたんだ」
 十年前と全く変わらない元気さで曾孫に返した。
「だったらな」
「それでよね」
「このままいってやる」
「そうね」
「そうだ、それで今日もだ」
「お蕎麦噛まないで食べて」
「風呂もあっさりと入ってきた、それじゃあ今からおこしと茶出すからな」
 それでというのだ。
「お前等も食え、いいな」
「それじゃあね」
「ああ、遠慮はするな」
「遠慮は嫌いね」
「そうだ、だから食え」 
 こう言ってそうしてだった。
 曾孫一家にそうしたものを出して一家の話を聞いた、この時も彼は明るく裏表がないまさに江戸っ子であった。


昔の江戸っ子爺さん   完


                2021・4・14
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