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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
情の変遷
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胸臆に大きな満足の種を蒔いたのと同じであった。ましてやそれが異性の幼馴染であれば、少なからずこの関係は良好なのだろう──と読みを入れつつ、反面、その幼馴染が告げた『元Sランク』という肩書きを憂いていた。そのことを、彼女に気取られないようにしつつ。

武偵校を入学した当初は、強襲科の新入生として、同時に如月彩斗と並んでのSランクとして、注目の的だったことは言うまでもない。問題は、それがどこまで、いつまで持続できるかだった。ということを思うと、入試の際、彼は自らの自己体質に救われてしまったことを、後悔するしか他に仕様がなかったのである。Sランクという肩書きはHSSの加護によるものであり、自分自身の地力ではないことを自覚しては、人知れずといおうか──何度も翼を?がれていた。

それでも、努力はしたのだと自負している。それがあったからこそ、かろうじてAランクなのだ。専門科目で培った知識は出来る限りを吸収し、技力はHSSにこそ劣りはするものの、地力との差は微弱なりとも埋まってきていた。強襲科の有力主であることには、今も去年も変わりない。しかし、やはり如月彩斗の方が上なのだ、と思い知らされる時がある。《明鏡止水》を付与された時の技力こそ、HSSの自分には劣らないが、それよりも格段的に異なるもの──。

それは、卓越した洞察力と論理的思考、大局観だった。これだけは、自分を上回っていたのである。大局観は一朝一夕で身に付くものではない。ともすれば、彼はいつからそんなことをしていたのかと、キンジは気に掛かっていた。それでも、訊けなかった。訊きたくなかった。置いていかれそうな気がしていたから、ずっと訊くことはしなかったのだ。それでも、いつかは──。

彼は改めてそう決意すると、やにわに歩を進めた。
「……帰るぞ」
「え? あっ、うん」

歩調を合わせて2人は歩く。何を話すともなく無言のまま、自然の織り成す即行交響楽に耳を済ませているきりで、他には青天井を眺めるとか、それきりのことしか、してはいなかった。立ち昇りはじめた入道雲、燦燦と降り注ぐ陽線、やけに似合わない五月風──そこに時期尚早の夏を感受しながら、キンジは隣で歩いている白雪を一瞥する。雪肌には、薄膜を張るように汗が滲み出ていた。髪が汗で貼り付くのを嫌っているのか、指を手櫛にして細かく位置を整えている。

「そういや」と彼は口を開く。五月風で連想した。5月といえば、あれがあるのだ。


「そろそろゴールデンウィークか」
「あぁ……、そうだね。キンちゃんは何処か行くの?」
「俺は、別に。白雪はどうするんだ」


暗に『連れてってやることも出来るが』とキンジは告げた。彼女はその問いに沈黙を喫すると、小さく小首を傾げて、作り笑いのような苦笑を浮かべる。いつもの白雪らしくないな──と
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