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江戸腫れ
第一章
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   江戸腫れ
 富松重衛門兼定は久保田藩またの名を秋田藩というその藩の藩士である、彼はこの時今か今かと待っていることがあった。それで他家に養子に入った弟の来栖宮衛門重光と蕎麦がきや魚の干物を肴に家出飲んでいる時に言った。二人共面長で眉が太く目は丸いが富松の方が背が高くがっしりした体格だ。弟はやや小柄でひょろりとしている。しかし二人共日々の剣術や馬術の鍛錬で引き締まった身体だ。
 その彼は弟に飲みつつ笑って話した。
「いよいよだ」
「江戸に行くな」
「殿のお供でな」
「参勤交代でだな」
「うむ、楽しみだ」
 富松はこう弟に返した。
「拙者もな」
「江戸は賑やかだな」
「言っては何だが秋田と全く違う」
「そうだな、拙者はこの度は参勤交代で江戸に行かぬが」
「そして江戸屋敷に留まらぬな」
「しかしだ」
 それでもとだ、弟も飲みつつ兄に応えた。
「江戸はいいところだ」
「人が多くな」
「賑やかでしかも美味いものも多い」
「しかも雪はここより少ない」
「家が潰れるまで降ることはない」
「寒さもずっとましだ」
「まことによいところだ」
 江戸はというのだ。
「だから兄上もだな」
「今から行くのが楽しみだ」
「では行けばな」
「楽しんでくる、何よりも江戸では麦飯や玄米なぞ出ぬ」 
 富松はこのことも笑って話した。
「それが特にだ」
「いいな」
「やはり米は白米だ」
 これが一番美味いというのだ。
「全く以てな」
「拙者もそう思う、ここでは藩士といえど白米はあまり食することが出来ぬ」
「麦飯や玄米ばかりだ」
「しかし江戸は白米が普通だ」
「町人達も皆白米だ」
「その白米も食って来るな」
「そうして来る」
 それが最も楽しみだ、弟にこう言ってだった。
 富松は藩主の参勤交代について行って江戸に入った、そうして江戸に入ると町に出てその人の多さや賑やかさを楽しみ。
 美味いものも食った、特にだった。
 朝昼晩と白米を食った、むしろだった。
 おかずを食うとその分白米が食えぬのでそればかり食った、そうして同僚達に満面の笑顔で言った。
「いや、江戸はよい」
「白米が好きなだけ食える」
「だからだな」
「左様、白米が食えることがどれだけ嬉しいか」
 こう言うのだった。
「まことにな」
「それは確かにな」
「武士が食いもののことを言ってはよくないが」
「しかし江戸では白米が好きなだけ食える」
「むしろ麦飯や玄米を探す方が難しい」
「ここでは長屋の町人も皆白米だ」
「白米を食わぬ者はそうはおらぬ」
「その白米の美味いこと」 
 富松は実に嬉しそうに語った。
「何度食っても飽きることはない」
「全くであるな」
「おかずの漬
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