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モノクロの世界を変えたもの
第二章

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 二人はもう何もすることはないと思っていたが。
 コテツの世話をして一緒に暮らしてだった。
 笑顔になった、それで夫は妻にコテツを膝の上に起きつつ話した。
「今はな」
「ええ、コテツがいてね」
「毎日が楽しくて仕方ないな」
「コテツを見ているだけで」
 まさにそれだけでというのだ。
「本当にね」
「毎日が楽しいな」
「嘘みたいにね」
 これまで何も思うことない余生だったがというのだ。
「そうなったわね」
「わし等が何かあったら卓也が引き取ってくれるし」
「そのことも決まったし」
 長男の彼が一家全員猫好きということもありその話をすると快諾してくれたのだ、それでその時の心配もいらなくてというのだ。
「それじゃあね」
「これからもな」
「コテツと一緒にいましょう」
「是非な」
「そして楽しく過ごしていきましょう」
「コテツもそれでいいな」 
「ニャア」
 コテツは夫の言葉に一声鳴いて応えた、そしてだった。
 老夫婦の温かい視線に喉を鳴らした、二人はその彼を見て自然と笑顔になった。
 二人は十年の間コテツと暮らしていたが。
 ある冬の日妻は朝起きると穏やかな顔で亡くなっていて。
 夫は暫くしてから動けなくなって入院して程なくだった。
 世を去ることになった、その最期の時に。
 看取りに来た子供や孫、曾孫達にこう言い残した。
「コテツを宜しくな」
「わかってるよ」
 その引き取る息子が応えた、その声を聞いてだった。
 彼はゆっくりと目を閉じた、そして。
 葬式まで終わったところで息子は家の中でずっと葬式を見守っていたコテツに頭を撫でつつ声をかけた。
「親父とお袋をこれまで有り難うな」
「これからは私達が貴方の家族よ」
 息子の嫁も言ってきた。
「宜しくね」
「親父もお袋もな」
「ずっと何もすることがないって言われてね」
「もう笑うこともなかったのに」
「貴方がずっと笑顔にしてくれたのよ」
「そのことを忘れないからな」
「今度は私達が貴方を笑顔にするわ」
 こう言ってだ、コテツは老夫婦の長男の一家の家族になったが。
 もう子猫から老猫と言っていい位になっていた彼は今度は彼等を笑顔にした、老夫婦をそうした様に。


モノクロの世界を変えたもの   完


                    2021・8・28
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