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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
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平賀文に依頼した装備の点検は、まだ済んでいない──それを知ったのは、昨夜の騒動から一晩を越した今朝のことだった。そうしたことばかりに思考を取られてしまって、最も大事な装備というものを、あたかも手放しにしていないような錯覚に陥ってしまっていたのだ。アリアはその件について昨夕の帰宅から何も触れなかったし──自分もそれどころではない心持ちでいたのだから──何より例の騒動を目の当たりにしてしまっては、もはや蚊帳の外だった。

予備として別に購入しておいたノンカスタムのベレッタM93R、マニアゴナイフ、その2つきりが今の自分の装備だ。《緋想》も無ければデザートイーグルも無い。ろくに点検せずに事故を起こす方が駄目だ──とは言ったものの、いざこうすると、ちょっとした不安感はある。
背やジャケットに隠匿していたぶんの重量感が抜けていることに、言い知れぬ違和感というものを覚えながら、自分はアリアとともに教務科棟へと向かう廊下を談笑しながら歩いていた。

「ホームルームの後に連絡しないで、わざわざ校内放送で呼び出すってことはさ」そう言って、横に並ぶアリアの顔を見る。「話す用事を決めたのは、先程ってことになるのかな」
呼び出されたのは、わずか数分前だった。いつもの4人で少し早い昼食を摂り終える頃、甲高いチャイムとノイズとを響かせながら、自分たちの名前がそこに並べられてしまったのである。兎にも角にも白雪の護衛をキンジに頼みながら、こうして目的地へと向かっていた。


「そうなるわね。……何を言われるのかは分からないけど」
「怒られる、ってことはないよね?」
「別にアタシたち、怒られるようなことなんてしてないじゃない」


軽快に笑いながら、アリアはそう告げた。「それもそうだね」と返事しながら、自分も笑う。
そうこうしているうちに、教務科の入口は目前だった。2回ほど軽く扉を叩いてから、謹厳な態度でもって教務科の中に歩を踏み入れていく。目的の相手は、探さなくてもすぐに確認できた。「こっちや、はよ来んかい」酒焼けた声を掛けてきたのは、強襲科顧問の蘭豹だった。

椅子の背もたれに体を預けながら、彼女は自分たちを手招いている。そのまま酒か何かの入っているらしい瓢箪を豪快にあおると、満足そうな笑みを浮かべていた。少なくとも機嫌は悪くなさそうで、これなら怒られるようなことも無いだろう。そう安堵してから歩を踏み出す。

「あれって、お酒なのかな……」と耳打ちしてくるアリアに「多分ね」と返しながら、2人は揃って蘭豹のもとへと歩み寄る。意外に整頓されていたデスクの端には、彼女が愛銃としているM500が無造作に置かれていた。足元には2メートル近い斬馬刀が転がっている。一瞥したデスクから視線を蘭豹に戻した自分とアリアは、ひとまず彼女に向けて軽く会釈をした。


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