第二章『銀の海の狂人技師』
episode18『人形狂いのプロローグ』
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ヒナミの傷も数こそ多いが、どれもさほど深くはなかったためか既に完全完治済み。ほぼ全焼した教会も白崎典厩の手回しで既に魔鉄建築士たちにより再建され、有馬智代も義足とはなったが、既に以前と遜色なく行動できる程度に回復していた。
傷跡は深い、けれど確実に事態は前進しつつある。そんな頃。
「――聖憐学園、に」
「そう、君達を招待したい」
白崎典厩がそう切り出してくるのは、何も今回が初めての事ではなかった。
初めは以前の襲撃騒動の少し前、シンが未だ己の歪む世界に悩まされていた頃にも一度あったのはまだ記憶に新しい。
当時はシンの抱える世界が膨れ上がり、崩界として爆発することを危惧したが故の対処。その最悪の事態を未然に防ぐべく、逢魔シンを聖憐学園に迎え入れる、という趣旨だったはずだ。
当時のシンを蝕んでいた世界は、妙な言い回しにはなるが、それほどに“重症”だったと言える。逢魔シンという命を挫き、最悪の場合未曽有の大災害を引き起こしかねなかったそれは今や、宮真ヒナミとの契約により未然に防がれた。
逢魔シンを蝕む世界は消え、彼は正真正銘に『人間』になったのだ。
「崩界の危険は、もう無いんですよね?」
「ああ、ない。そこはサトリの嬢ちゃんの診断を信じてくれて構わないよ。で、そこはそことしておじさんが君を勧誘してるのはまた別件だ」
「別件、っていうと」
「単純な話さ、純粋に“製鉄師としての逢魔シン”を、製鉄師の先達として買っている、ただそれだけの事だよ。スカウトって言い換えても構わない」
製鉄師の強さというものは千差万別だ。
そもそもの話、『たった一組で戦場を塗り替える』といった逸話で紛れがちではあるが、製鉄師という存在は戦うためだけの存在ではない。
無論製鉄師という存在は、こと闘争においてあり得ない程のアドバンテージを有するというのも事実。製鉄師には製鉄師を。これが今の時代の戦争の鉄則だ。
だが一口に製鉄師、或いは鉄脈術といっても、その効果は本当に十人十色なのだ。例えばシンのような己の鬼化や浄罪の炎を扱う鉄脈術もあれば、遠く離れた場所への瞬間移動を可能にする鉄脈術、或いは見たもの全てを記憶できるようになる鉄脈術など、戦闘に関わるものも勿論、まるで戦闘に活用できそうもない能力も存在する。
鉄脈術とは、魔女と契約を交わした製鉄師の抱える世界の映しだ。製鉄師の数だけ、その抱える世界の数だけ、鉄脈術は存在している。
だが少なくとも、逢魔シンのそれは間違いなく『闘争』に高い適性を示しているのは歴然だ。そこに対して関心を示しているという事は、つまり。
「僕らも“戦え”って、事ですか?」
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