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風呂の中の石
第五章

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「そうすればいい」
「そうか」
「喋ると気味悪がられたり変に興味を持たれたりする」
「だからか」
「そこは気を付けてな」
 そうしてというのだ。
「これからも湯を楽しむといい」
「そうか」
「これからはな」
「わかった、わしも風呂は気軽に入りたい」 
 石もこう答えた。
「だからな」
「これからはだな」
「人前、人が近くにいる場所ではな」
「喋らんな」
「普通の石でいる」
 そのふりをするというのだ。
「そうする」
「そうするといい、ではな」
「これからはな」
「その様にな」
「うむ、ではこれからも楽しもう」
 風呂、温泉をと言ってだった。
 岩はこの時は想念と共に湯を楽しんだ、そして彼と別れると以後石は喋らなくなった。
 想念は主には風呂好きの心根のいい幽霊がいたので彼と話をして納得してもらってお経で成仏してもらったと話して石のことを気遣って隠した。そのうえでだった。
 謝礼の布施は真実を隠したので固辞して大坂に帰った、そして。
 その後でだ、彼は随分後になって藤兵衛に真実を話した。
「こういう次第で」
「そうでしたか」
「はい、有馬にです」
「そうした石がいますか」
「おそらく今もです」
「その石が有馬におって」
「湯を楽しんでいるでしょう」
 密かにそうしているというのだ。
「おそらく」
「いや、そんなことがありますか」
 藤兵衛は想念の話に唸って言った。
「石が長い間おったら心を持って」
「喋ってです」
「温泉を楽しみますか」
「そうかと、そして」
 それでというのだ。
「もうこの石は喋らないとのことなので」
「それで、ですか」
「はい、もうです」
「あそこに言ってもわからへん」
「そうです、ですが確かに今も風呂を楽しんでいるので」
「その石みたいな石を見ても」
「何も言わずにです」
 例えこの石かと思ってもというのだ。
「そっとしておいて下さい」
「わかりました、ほな」
「それも気遣いというものなので」
 想念は藤兵衛に微笑んで話した、そしてだった。
 藤兵衛はこの話を大坂に伝えた、その話は有馬にも伝わり今も残っている、だが果たしてどの黒くて丸い石がその石なのかは今ではわからない。若しかして湯に入っている時に傍にあった石がそうかも知れないが。


風呂の中の石   完


                2020・12・13
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