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風呂の中の石
第二章

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「これが誰もです」
「いなくて」
「はい」 
 それでというのだ。
「ご存知の通りです」
「噂になっている」
「そうなのです、声がすると」
「それで幽霊がいるだの狐狸がいるだの」
「しかしです」
 それがというのだ。
「いないのです」
「そうなのですね」
「誰も。この誰もいないということは宿にいる者は知っていますが」
 それでもとだ、主は想念に話した。
「他の人はその通りです」
「噂をですね」
「聞いているだけです」
 そうした状況だというのだ。
「これが」
「そうですか、ではです」
「それではですか」
「拙僧が温泉を見てです」
 そうしてというのだ。
「中を確かめましょう」
「そうしますか」
「はい、そうして宜しいでしょうか」
「どうぞ。好きなだけお入り下さい」
 主は想念にこう答えた。
「そしてです」
「その声のことをですね」
「確かめて下さい。私も気味が悪いので」
 その声のことがというのだ。
「実際に幽霊だの狐狸だのでしたら」
「祓って欲しいと」
「左様です、ですからまずは」
「温泉にですね」
「お入り下さい」
「それでは」
 こう話してだった。
 主は想念に自分の宿の温泉に入ることを勧めた、実際に想念は湯に入ってみた。だがその時は何の異変もなかった。
 だがそれでももう一度入りまた入った、すると。
 湯の中、底の端にある大きな見事な形の黒い石を見た。その石を見てだった。彼は主にこんなことを言った。
「湯の中にいい石がありますね」
「石ですか」
「底の端に」
 そこにというのだ。
「ありますね」
「石ですか。石まではです」
「ご覧になられていませんか」
「石は何処にでもありますね」
「特に温泉ですと」
「はい、もう誰も何でもないので」
 そうしたものと思ってというのだ。
「それで、です」
「ご主人もですか」
「そして宿の者も」
 誰もがというのだ。
「これといってです」
「気にされていませんか」
「はい、石については」
「黒くて大きな石です」
 想念はその石の具体的な話をした。
「そうした石ですが」
「その石ですか」
「それがありました」
「そうですか、まあ石は」
 主はまたこう言った。
「うちの宿の湯でも他の温泉でもです」
「普通にありますか」
「はい」
 そうしたものだというのだ。
「温泉街でしたら」
「それはそうですね、ですが」
「それでもですか」
「実にいい石です」
 こう言うのだった。
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