夢海、夢見る
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「お前と夢海ってしょっちゅう一緒にいるよな」
「僕は嫌なんだけどね」
「嫌?」
「夢海の事、大嫌いだからさ」
もう昼休みが終わろうとしているのに彼女の姿が見えなかったので、三島はしぶしぶ夢海探しに乗り出した。彼女のいる場所を特定するのはそう難しくない。伊達に十年も一緒に居ないということだ。
真っ先に図書館に行くと、夢海がある書架の前でぼーっと立っているのを発見した。彼女の目線の先には、明治から大正に掛けて活躍した作家の全集が並べられており、彼女は今まさにその中の一冊を引き抜こうとしているようだった。
奥の窓からは陽光が挿し込み、空気中に漂う埃を輝かせていた。人間が立ちいってはいけない静けさを感じたが、授業開始の鐘が三島を急き立てる。夢海の肩に手を置くと、彼女の事を雑に揺さぶった。
彼女は「あれ? 三島くん。どうしたの?」と気のない返事をする。
「もう授業が始まんだよ。先行くぞ」
「えー。まってよぉ」
とっとっと、と彼の後を付いてくる夢海。彼女は楽しそうに「えっへっへ。本の中に入っちゃう夢、見ちゃった」と話した。本当はこんな無益なことで感情を高ぶらせたくなかったが、それがもう彼にとって「義務」としか思えない。立ち止まり、振り返ってはっきりと言った。
「夢海。もう図書館に行くな」
当然のように彼女は「なんでー?」と訊いてくる。
「とにかく、行くなったら行くな。分かったな」
「でも……」
手を揉む夢海。追い打ちを掛けるように
「それと、僕に夢の話をしないってこの前約束したよな?」
と、かなり厳しい口調で言った。
約束のことをすっかり忘れていた夢海は「あっ」と声を漏らす。
「今度の約束は守れよ。図書館には、い、く、な」
夢海は悲しそうな表情を浮かべる。まるで僕が意地悪しているみたいではないか。――いや、彼女からしてみればそれに相違ないのだろう。なぜ図書館に行ってはいけないかを全く知らないわけだし、自分もまた、それについて尋ねられたとしても話せない。
テレビを見るな。映画館や遊園地へ行くな。本は読むな。三島が彼女に課した制限はこれだけじゃない。川や海で泳ぐなとか、横断歩道や線路を一人で渡るな。細々としたところまで禁止した。夢海はよく聞いてくれているのだが、最近では「なぜ?」と訊いてこない。彼にとってそれはとても都合のいい事だけど、本当に分かっているのか不安にもなる。
「授業、遅れちゃったね」
「ああ。お前のせいでな」
全ては彼女が悪い。三島は心の底からそう思っていた。本当なら、とっくのとうにお互いがお互いを敬遠して、忌み嫌い合ってもおかしくないような間柄なのだ。しかし、夢海は自分だけ我慢してその事態を回避している。三島と夢海が教室の中へ戻ってくると、教師から叱責の声が上がった。そし
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