第十一章 至垂徳柳
[35/35]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
を切っただけであった。
当たる寸前、紙一重のタイミングで、祥子が斜め後ろへ引きながら顔を横へ動かしてかわしたのである。
紙一重ではあるが、見切っての、余裕を持っての紙一重。
祥子の涼しげな顔を見れば、誰でもそう思うだろう。
ぶん、ぶん。
右、左、連続で拳を突き出すが、しかし当たらない。
騎槍を振り回す場所もないから、拳を振り回すしかないわけだが、その格闘術にしても、しっかり訓練は受けているはずなのに。
訓練所でも、少しは祥子の方が強かったかも知れないが、そこまで圧倒的なものでもないはずなのに。
避けるだけの相手に、ここまで一発も当たらないとは。こんな悪い足場だというのに。
「狭い部屋に、そのでっかい図体は邪魔や!」
また拳を突き出すが、祥子は涼しい顔、風圧を受けた木の葉のように紙一重のところひらりとかわす。
「狭い部屋に邪魔なくらい大きい図体がいるのなら、どうして当たらないのかなあ」
「黙れ!」
「君の邪魔をするためなら、いくらでも大きな図体になれそうな気がするよ」
「黙れゆうとるんが聞こえへんのか!」
拳を振り上げ、身体ごとぶつかる勢いで飛び込んだ。
だが、拳が祥子の顔を捉えることもなければ、身体をぶつけることどころかかすめることすらも出来なかった。
祥子の、容赦ない平手を頬に受け、足元に転ばされたのである。
「いい加減にしたらどうかな、ウメ。ボクも校長さんの考えに賛成だな。……だって、誰も喜ばないよ。誰も。君の妹、雲音だって」
「なにが分かるんや! 自分になにが分かるんや!」
応芽は床に這ったまま、両方の拳を床に叩き付けた。
泣いていた。
拳で床を何度も叩きながら、応芽は、涙をぼろぼろこぼしながら、泣いていた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ