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魔法使い×あさき☆彡
第十一章 至垂徳柳
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を切っただけであった。
 当たる寸前、紙一重のタイミングで、祥子が斜め後ろへ引きながら顔を横へ動かしてかわしたのである。

 紙一重ではあるが、見切っての、余裕を持っての紙一重。
 祥子の涼しげな顔を見れば、誰でもそう思うだろう。

 ぶん、ぶん。
 右、左、連続で拳を突き出すが、しかし当たらない。
 騎槍(ランス)を振り回す場所もないから、拳を振り回すしかないわけだが、その格闘術にしても、しっかり訓練は受けているはずなのに。

 訓練所でも、少しは祥子の方が強かったかも知れないが、そこまで圧倒的なものでもないはずなのに。
 避けるだけの相手に、ここまで一発も当たらないとは。こんな悪い足場だというのに。

「狭い部屋に、そのでっかい図体は邪魔や!」

 また拳を突き出すが、祥子は涼しい顔、風圧を受けた木の葉のように紙一重のところひらりとかわす。

「狭い部屋に邪魔なくらい大きい図体がいるのなら、どうして当たらないのかなあ」
「黙れ!」
「君の邪魔をするためなら、いくらでも大きな図体になれそうな気がするよ」
「黙れゆうとるんが聞こえへんのか!」

 拳を振り上げ、身体ごとぶつかる勢いで飛び込んだ。
 だが、拳が祥子の顔を捉えることもなければ、身体をぶつけることどころかかすめることすらも出来なかった。

 祥子の、容赦ない平手を頬に受け、足元に転ばされたのである。

「いい加減にしたらどうかな、ウメ。ボクも校長さんの考えに賛成だな。……だって、誰も喜ばないよ。誰も。君の妹、(くも)()だって」
「なにが分かるんや! 自分になにが分かるんや!」

 応芽は床に這ったまま、両方の拳を床に叩き付けた。

 泣いていた。
 拳で床を何度も叩きながら、応芽は、涙をぼろぼろこぼしながら、泣いていた。
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