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愚かな思想家
第四章

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「だからといってたかがとは言うものか」
「丸山さんの研究室が荒らされたことを」
「それも散々に、丸山さんは暴行も受けた」 
 捕えられ大学の中を引きずり回されたことについても言った。
「吉本がそうなればどうなる」
「やっぱり怒りますよね」
「自分の書斎に馬鹿共が無理に押し入って泥だらけにして本もフィルムも荒らしたらどう思う」
 丸山がそうされた様にというのだ。
「一体」
「それはまた」
「怒るな」
「絶対にそうなりますね」
「そう言う奴こそ怒るものだ」
 他人に怒った事件をたかがと言う者程というのだ。
「それが人間だ、つまり吉本は」
「人間がわかっていませんか」
「人の痛みも苦しみもな」
「ですがあの人は」
「戦後最大の思想家だな」
「教祖みたいに言われていますが」
 このことを言うのだった。
「今も」
「戦後最大の思想家でも馬鹿はだ」
「馬鹿ですか」
「そうだ、というか戦後の知性はどうだ」
 そもそもと言うのだった。
「一体」
「低いとですか」
「そうだ、そんな低い中での最大なんてな」
「馬鹿ですか」
「そんなものだ、むしろあんな人の痛みも苦しみもわからず」
「人間がわかっていない」
「そんな奴が戦後最大の思想家なんて呼ばれるのがな」
 吉本の様な輩がというのだ。
「戦後日本の知性の低さを表しているな」
「そうですか」
「丸山の学説にも間違いがあるだろう」
「保守系からは批判されていますね」
「ファシズムの定義等でな」
「そうですよね」
「だが丸山はたかがというものでは済まなかった」
 彼が受けた傷はというのだ。
「彼は生涯を賭けて学んできて得てそして我が子の様に思っていたフィルムや本を壊されて踏み躙られたんだ」
「それは酷いですよね」
「引きずり回されてな」
 暴行まで受けてというのだ。
「それまで培ってきたものを暴力で否定されたんだぞ」
「一生を否定されたに等しいですね」
「学者としてな、だからあの人はもうすっかりしょげかえったが」
「それをたかがと言うことは」
「人の痛みも苦しみもわからないでだ」
「わかろうとしないで」
「そして人間がわかっていない、吉本は馬鹿だ」
 はっきりと言い切った。
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