暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
陰火
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
―――視界が赤い。


目を閉じたままでも陽光の気配を感じる。…綿のような日差しだ。うっすらと目を開けると、カーテンを透かして朝の光が差し込んで来ていた。
…こりゃ、桜も咲くな。ゆっくりと半身を起こし、伸びをした。…体が軽い。何かの枷が外れたようだ。枕元の定位置に置かれた体温計を手に取り、腋に挟む。程なく腋下から軽い電子音が聞こえた。
「……む、下がっている」
この2週間近く悩まされ続けた高熱が、嘘のように下がっていた。
「そろそろか」
桜が咲く頃まで。奉はそう云っていた。膨大な石段の先に聳えるインチキ神社など、間違っても病み上がりに行っていい場所じゃなさそうだが…仕方ない。俺はもう一度軽く伸びをして、ベッドから降りた。



木肌が剥き出しの鳥居が連なる石段を、久しぶりに見上げる。



倦怠感…とも、安堵感とも違う奇妙な感情が胸を満たした。なんだろうか、この感じは。石段を踏みしめながら、俺は石段の遥か遠くの桜を眺めた。…まだ体調が不十分なせいだろうか、少し滲んで見えた。
「…つ、疲れた」
思わずそんな言葉が漏れた。2週間程度ひたすら寝込んでいる間に、体力が随分落ちていたようだ。鳥居を抜けた頃には既に息が切れていた。こんな石段を鴫崎は、本が入った重い段ボールを抱えて登っているのかと思うと、頭が下がる思いだ。友が皆、我より偉く見える日よ。
石段の途中に腰掛け、温くなったペットボトルの茶を呷った。桜が咲いている辺りまではまだ遠い。静流に声をかけようか迷ったが、やはり一人で来てよかった。この程度の石段で息を切らしている姿を静流に見られるのは…。
「んー…なんか、白いな。今年の桜は」
「桜だと…?」
背後の植え込みから聞こえた声に、俺は弾かれたように振り返った。
「―――何で居るの!?」
「仕事だよ」
植え込み裏の暗がりにぼんやり突っ立っているのは、俺の親父だった。ホームセンターの園芸コーナーで売ってそうな、農家丸出しの麦藁帽に、姉貴が高校生の頃に買った鹿だかトナカイだかの柄の赤いカーディガン、そしてもう何年も買い替えていないゴアテックスの登山靴を泥まみれにして、玉群の社周辺をずっとうろついていたらしい。
…自営業だと身なりとかどうでもよくなっていくのだろうか。この状態の親父に街中でエンカウントしたら全力で逃げる。多感な高校時代、俺は本気でそう思っていた。
「…もう大丈夫なのか」
「ああ、なんか熱下がった」
「…無茶だろ、病み上がりにこんなとこ」
「…そうだな」
全くだ。こんなに体力が落ちていると分かっていたら、奉んとこなど寄らなかった。
「親父は何やってんだ」
「だから仕事だ」
「なんの仕事かと聞いてるんだよ」
親父は一瞬、細い目を大きく見開いて俺を凝視した。
「珍しいな、お前がそんなことを
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ